昭和の風林史(昭和五四年七月九日掲載分)

迷わすところ 大直り初期の現象

早耳の早倒れというが、早見えの早倒れでもある。小豆は出直り態勢の序の口である。

「寝冷して韮の雑炊たきくれし 恒明」

天井売らず、底買わず―という言葉がある。

相場の天井や大底は、あとから、あゝあそこが天井だったのだなとか、やっぱりあの値が大底だったか―と判るもので、一文の上値もない素天井やドン底というものは、売れもしなければ、買うことも出来ない。

要は、少し間を置いて、天井を打った、大底が入った―が判ればよいのだ。

あまりいい値段を売ったり、買ったりすると、まま災いになる事がある。

大天井を売ったり、大底を買うのは、僥倖(ぎょうこう)である。好運だったと思わなければならない。

大天井を売った玉や大底で買った玉は、どうしても利食いが早くなる。

いまの小豆相場を見ていても、大底を強気した人は利食いしている。

それが、利食いだけで済ませておけばよいのだが、手が、早い目、早い目になるもので、相場が愈々上昇期に入る段階で売りまわったりするものだ。

相場の呼吸と、自分の手が少しずつズレていく。

得てして相場に大曲りするのは、よく見えていたあとである。

実際は見えているのだが段々早見えしすぎて、相場とのタイミングが合わなくなる。少し間をもたせればなんの事はないのだが、心に焦りを生ずるから、ますます呼吸が合わなくなる。

本間宗久伝に、損したあとでも利食いしたあとでも少し休め―と教えているのは、要するに、そこのところを言っているのだと思う。

今の小豆相場は底入れして、出直り段階である。

いい値段を買った人たちは早々と利食いしている。

これらの人たちが、再び買い直しを入れてくるのか。それとも、これからの高値を売ってくるのか。

一方、安値ドン底をドーンと売った人もいる。内心しまった―と思っているかもしれない。相場の足が少々違うぞ―と感じておれば。

しまったは仕舞えで、安値を叩いたが、この相場、単なる戻りでなく、大直りだと直感すれば、ドテン買いにまわって充分間に合う。

小豆先限の三千五百円から四千二、三百円あたりまでは、前述したようなさまざまな思案と思惑が交叉するところであろう。

筆者は、とりあえず三千丁高と見ている。二万五千円あたりの値を取りに行く動きと判断する。

●編集部註
 相場は意地悪である。

 中長期の流れは正解であっても、短期的な方向は不正解になる時がある。

 故に日柄が重要になる。