昭和の風林史(昭和五四年九月十二日掲載分)

売らず買わず

休むも相場という

◇…ぜひ売ったり、買ったりしなければならないわけのものでもない。判らぬ時は休むも相場。

「壁に日々筑波の晴や懸煙草 駒村」

◇…強気でもなし、弱気でもなし、安いところは買う、高ければ売る。そういった感じの小豆相場になっている。

◇…押してくると、五千五百円は無理だな―という。

強張ると、あるいは六千円抜けも―となる。

定見がない証拠である。

◇…買って五百丁、売って七百丁。そこから手数料を引くと、気を揉んだ割りに利幅は少ない。

◇…従って、仕掛けに積極性がない。

◇…商品相場の投機は意外性があればこそ人気も集まる。

今の小豆の場合、意外性は少ない。

二万六千円近くはホクレンや雑豆輸入商社がヘッジしてくる。

従ってそれ以上の値段は余程なにかの意外性がないことには付かない。

六千円は、誰でも売ろうという場合、その二、三百円手前で相場は止まるものである。

これが、六千円を付けるようなら、その相場は六千円で止まらず、もっと上にいく。

◇…下から陽線三本で、かち上げて、上から陰線一本食い込んでの利食い線。これを小さく切り返したが、ガツンと長陰線で叩き込まれた。

となると、これが押し目か、戻り一杯か?となる。

◇…当初千円ぐらいの戻りはあってもおかしくないという市場人気だった。

這えば立て、立てば歩めの親心というが、千円戻せば千五百円。千五百円高なら二千丁となるのが相場する人の欲心である。

◇…秋も、ようやくたけなわ。例年だと彼岸過ぎる頃まで残暑が厳しい。

彼岸のお中日にお墓参りに行って、法師蝉を聞くのであるが、今年は法師蝉の鳴き止むのも心なしか早いようだ。

寒さに向かうのが例年より早ければ、小豆の需要もそれだけ増大しそうなものだと思うが、加糖アンという伏兵に用心しなければなるまい。

◇…売り場を待つ間に売り場を失したかもしれないが、まあ気長に見ておれば判りやすいところも出てこよう。

◇…商品の先物相場というものは、これが投機の場合、物があって売るわけでないし、ぜひ売らねばならぬというわけでもない。逆に買わなければ困るというものでもない。値が気にいらねば、売らず、買わずでもよいのである。

●編集部註

インベーダーゲームが大流行したのはこの年で、今思えばコンピューターのような「精密電子機器」が市井に広まる転換点であった。

良くも悪くも、技術の発達とともに相場が迅速になり、鷹揚に動き難くなったと言える。