昭和の風林史(昭和五四年九月十八日掲載分)

下値深そうだ 投げが投げ呼ばん

◇…この小豆相場は下値が深いと思う。下げのキッカケがつくと投げが投げを呼ぶだろう。

「塗下駄の湿りや萩の露曇り 紅葉」

◇…毎日の事であるが、原稿を書く時に、なんの抵抗もなくすらすらと書ける時と、書き出す時から煙草を何本も吸ったり、コーヒーを飲んだり、シャープペンシルの芯をかえたり、あちらこちらと電話を入れてみたり、なんとも原稿の纏りがつかない時がある。

そういう時は、相場が動いていない。閑散低調。これといった材料もない。

正直言って今の小豆相場は強弱しにくい。

◇…戻れば売られる相場が、戻らなければどうなるか。時間過ぎざれば、戻らなくても売られよう。

◇…上値にはホクレンの新穀ヘッジと、上海における中国小豆の契約如何によっては、雑豆輸入商社のヘッジも出よう。

一方、取組み内部要因は高値圏の買い玉が因果になっている。

この引かされ玉は、戻れば勿論だが、戻らなくても時間切れで投げざるを得ないのである。

◇…また、取引員の自社玉は七千六百九十一枚売りの二千八百六十三枚買い(大阪)という大上長である。

東京市場も八千二百四十枚売りの三千三百九十枚買いと上長である。

◇…売っておけばサヤすべりで期近になると安い。

◇…秋の彼岸を控え、需要最盛期というものの、売れて当然、売れなければ大変である。

◇…ともかく、中国小豆の上海での商談と、来月の秋季交易会。そのあとの台湾小豆の作付けに絡んで、ともかく北海道小豆が、なんの〝違作〟もなしで百万俵近い収穫なれば、これはもう供給面から高値を付けるという可能性が消える。

◇…市場人気は確かに弱いと言えるが、弱い人気であっても、二万四千円(先限)以下は値頃感で新規売れないという空気だ。

◇…市場が、おだやかな時なら二万四千円以下の下値は深いとは、思わないのである。だが、ひとたび値崩れにはいると、一種のパニックであるから、売りが売りを呼び、投げが投げを呼ぶ。

まさかと思う値が付くのは、そういう時である。

◇…相場は非情である。非常といってもよい。因果玉を辛抱しているあいだはよく知っていて、少しも好転しない。

昔の人はこの間の事情を「煎れたらしまい。投げたらしまい」と言った。投げ尽すまでは、相場に底がはいらない。悲しい事だがこの小豆下値が深いと思う。

●編集部註
利が乗った玉はすぐ手放すのに、因果玉はなかなか手放さない不思議。

我慢して勝利する経験など数えるほどもないのについ我慢する不思議。

諦めて手放した途端その方向に向かう不思議。機敏に動けず、動かぬと相場が動く不思議。

相場は不思議だらけだ。