昭和の風林史(昭和五四年九月十九日掲載分)

痩せた投機家 資力、気力ともない

◇…穀取市場を一言で表現すれば「天高けれども投機家痩せた秋」である。ゆくゆくは大安小豆だ。

「はたはたも短かくとびて野路親し 風生」

◇…小豆相場に対して、商社筋は上げ賛成である。

この場合の上げ賛成とは定期を買っているから相場が上がって欲しい、というわけではない。

相場が上がったら売りヘッジをかけたいという上げ賛成である。

◇…従って、売られるために買う馬鹿はいない。

狙撃兵が狙いを定めているのに塹壕から顔を出すようなものだ。

◇…それでも相場が高かったら。

この場合、蜂の巣みたいに穴だらけだと思う。

◇…需要最盛期で輸入小豆が売れているあいだは、目立ったヘッジもなかろうというものだが、先行きの見通しによっては、高いところはヘッジしておいて、品物が売れた分からはずしていくのがビジネスだ。

◇…上海における小豆の商談にしても、国内相場がいまひとつの値段だから商社筋も成約に積極性がなかった。

◇…国内定期相場を、買い好きな投機家が気張って買い上げたとすれば、成約量は増大し、すかさずヘッジされるだろう。

◇…投機家は、ヘッジャーのために好んで犠牲になる必要はない。

◇…これからの小豆市場は、ガリバーのような巨大な売り仕手ホクレンと、中国の供給。それに台湾の小豆生産者。このような少しでも高いところを売ろうとする供給者側に対して、微力な投機家が穀取という土俵で相撲を取る格好だ。
しかも取引員の自社玉も企業自衛のため、たえず売り姿勢である。

◇…蟷螂(とうろう・かまきり)の斧という言葉がある。弱いものが強いものに対抗していくさまである。

◇…筆者は、この小豆相場下値に深いものありと思っている。

戻れば売られるのである。戻らなくても売られる時がくるだろう。

大底が入っていない事。上値には因果玉がいっぱい残っている事。

中国も日本も収穫の秋である。供給力は充分。そのうえ台湾小豆が作付けを控えている。

外貨ワクが削減されるだろうという望みはあるが、需給構造面からくる相場の基調を、変えるだけの力はないし、市場構造面(投機家の零細化)からくる市況低迷沈滞化は恐らく避けるわけにいかないと思う。

要するに、穀取市場は天高けれども投機家痩せた秋なのだ。

●編集部註
相場と関係ないが、この日の甲子園球場、阪神広島戦で、当時広島にいた江夏豊がリリーフ登板し、プロ通算600試合登板記録を作る。

この年のペナントレースは広島が優勝し、日本シリーズでは近鉄と対戦する。

日本一をかけた最後の死闘は、後に山際淳司が書いた「江夏の21球」で後世に残される。