昭和の風林史(昭和五四年十月二四日掲載分)

売りは自殺だ 狂暴国際投機市場

砂糖を売ってみたいが―という地方の読者から電話がかかりだした。売っちゃいけない。自殺行為だ。

「里古りて柿の木持たぬ家もなし 芭蕉」

精糖相場の、にわか勉強が盛んである。

穀物市場のほうは、砂糖取引所に人気を奪われ無風状態。

商社筋ではニューヨーク砂糖(現物)21・75㌣(ポンド当り)、あるいは36㌣、それを抜けば45㌣が、ないとは言えない―と、投機の嵐にとまどったふうだ。

一九七四年11月、NY砂糖(現物)相場は史上最高の65・50㌣を付けた。いまから思うと、まるでエッフェル塔のような罫線で、上昇もきつかったが、反動安も凄かった。

今回も、またあのような狂騰を演じるのだろうかという不安がある。

あの時は、日本の砂糖取引所が精糖の売買を停止してしまった。

出来高不振で坤吟していた砂糖取引所にとっては、余り急激な上昇だと、増証や規制をかけなければならない。出来得れば、穏健な上昇が続き、商いもにぎわって、取引所の収入が増大していく事を願う。要するに息の長い相場を期待するのだが、これだけは国際相場だけに、まったく海外次第である。

メーカー筋は出し値を引き上げているが、現物の売れ行きが、いまひとつである。完全な海外市場における投機相場だけに、実勢から遊離する。

さりとて、値頃感などで売れば、ストップ、ストップで、どこまで行くかわからない。

われわれは過去に国際投機筋が介入した相場の怖さを見てきた。

為替相場におけるとどまる所を知らなかった円高相場。そしてロンドン自由金相場の三百五十㌦から四百五十㌦近くまで一気に熱狂してしまった相場。

これらは、いかなる政府も関与出来ない、地球上を這いまわる巨大な、ユーロダラー(無国籍資金)が獲物を見つけては襲いかかるから、行くところまでいかなければ、おさまらないのである。

地方の読者から、砂糖を売ってもよいか―という問い合せが多くなった。

とんでもない。売っちゃいけませんよ―と言うのだ。

海外からきている狂乱相場だから、どこまでいくか判らない。しかもストップ連続でやられたら、手仕舞いも出来ない。

売っちゃいけない、売っちゃあぶない。値頃観などまったく通用しないのが国際商品の投機市場である。

小豆や輸大は、あっけにとられて砂糖相場を眺めている格好だ。

●編集部註
 ここでの記述通り、この時の砂糖は〝売っちゃいけない、売っちゃあぶない〟相場であった。
 ここで大阪粗糖の月足を見てみよう。79年2月に5万円付近で推移していた相場は、10月に吹き上がって倍になり、7カ月後の80年5月に23万7800円まで上昇。
 下げ相場はそこからであった。