昭和の風林史(昭和五七年六月二三日掲載分)

納会前に急変の可能性が

小豆相場は、一瞬にして場面が急変する瀬戸際まできている。それは日柄の疲れだ。

小豆は今月納会で洗いざらい渡せるものは全部渡すという動きだ。来月は来月で、なんとかなる。当限逆ザヤは荷を呼ぶばかりだ。

五月の小豆輸入通関八千二百二十七㌧。

小豆しか儲かるものがないから輸入は積極的。

産地の天候は申し分なく作柄も順調。

東穀は臨増しをかけた。

商いは展開待ちで閑散。

市場の常識として買い方は納会で大量受けするだろう―とみているが、ひょっとしたら、ひょっとだと思う。

孫子兵法「旌旗動くは乱るるなり。吏怒るは倦みたればなり」―と。

買い方陣営にジレンマが見える。作戦の齟齬である。

納会接近とともに一瞬にして期近限月から崩れだす相場つきになってきた。

早やければ23日。遅くとも25日あたりに兆候が出る。

薄商いを衝いて買い方が買ってきても、場はシラけて、買いたければ買わせておけという空気だし、納会受けるなら受けさせればよいと、突き放している。

逆らわず、なびかずの方針で、実勢遊離したところを狙い定めて売る。

「その戦を用うるや勝つも久しければ兵を鈍らし鋭を挫き、城を攻むれば力屈す。久しく師を暴さば国用足らず。則ち諸侯その弊に乗じて起る。知者ありと雖もその後を能くすることあたわず。故に兵は拙速を聞くも未だ巧なるの久しきを観ず」。

長すぎる戦いの不利を孫子は説いている。

相場でいう日柄による自壊がそれだ。音たてて崩れる日を待つだけ。

●編集部註
 プロは売りが主戦場である。
 梶山季之の小説『赤いダイヤ』でも主人公に対峙する相場師は〝売り屋〟であった。
 小説では、中盤に買い屋が一敗地に塗れる場面が出て来る。そして終盤、反撃に出た怒涛の買いによって売り屋の顔が蒼ざめる所でクライマックスを迎える。
 この当時、売り方は小説の中盤を、買い方は小説の終盤を夢想していたと見る。それほど、人口に膾炙した作品であった。
 丁度来月1日、パンローリングから「相場名人/信条と生き方」という本が出版される。これは、著者の鍋島高明氏が日本経済新聞社に在籍していた頃から手掛けていたコラム「相場師列伝」の中から、商品先物市場で活躍した56人の相場師の記述をまとめたものである。
 当然「赤いダイヤ」のモデルになった相場師も実名で登場する。