昭和の風林史(昭和五七年八月二六日掲載分)

まさに小豆は崩れんとす

小豆売りの輸入大豆買い。方針不変。小豆はアッという下げが、今日か明日あろう。

小豆相場は三万円割れを前にしての抵抗をみせたが、作柄がよいだけにそれ以上に買えない。

要するに今の小豆は買っても夢がないのだ。

もう一ツは、作付け面積の大幅増反を逆に買った現象。これは素直でない。

従って、いずれ、増反売りという場面があるはずだ。

相場波動としては七月19日安値から夏天井を取りに八月12日まで、反動をつけて反発したが、一本足のV型底は、もう一本、必らず取りに下げる。

その下げ地点が、目先二万九千五百円(先限)あたりだろうと思う。

そのあたりから千円ほど戻すかもしれないが、これは九月上旬の相場で、再び絶好戻り売りとなろう。そして来月中旬からの下げが、いわゆる秋底を取りにいく二万八千円割れへの、秋の日のビオロンのためいきの身にしみて、ひたぶるにうら悲し。げにわれは、うらぶれてここかしこ、さだめなく―という下げがくるのである。

ところで輸入大豆のほうだが、期近限月から反撃にはいって、やっぱり底を入れたのだね―と、あとから気がつく。

こちらは小豆と違って、相場が若いし、逆ザヤに売りなしの図だ。

読者から期近限月は気持よく上げるのに買った先限は、ぬるい―と心配顔だが、先限も走りだすから大丈夫。

東京輸大のトレンドは24日の二百六十円以下(先限)は下げ過ぎ。25日すぐその分を奪回。ということは弾みがついた。四百十円三分の一。五百三十円半値。そのあたりを狙った動きになっている。

●編集部註
 暦の上では秋。風林火山が生きていたら、反知性主義が跳梁跋扈する平成の最後の秋をどう見るだろう。嘆くのか、あきれるのか、それともセ・ラヴィ、と全てをやり過ごしてしまうのか。
 少なくとも相場の分析にヴェルレーヌの詩が登場する事は、後にも先にもないのではないか。
 フランスの詩人を原書で読む人は今も昔も少ないと思う。ただ昭和初期の知識人の一般教養として、上田敏の「海潮音」は、例えば〝山のあなたの空遠く幸住むと人のいふ〟などと幾つか諳んじる事が出来た。三代目三遊亭圓歌もこの詩集を落語のネタにして人気を博した。
 本文に登場する一説は「海潮音」からの引用だが、この箇所は、第二次大戦末期のノルマンディー上陸作戦で、暗号として使われた事を知っていると、少し意味合いが変わる。