輸大期近は利食い千人力
小豆は秋底入るまで買っても駄目だと思う。輸大は利食い専一。生糸は重い相場。
輸入大豆が予定のコースで暴騰納会した。
火薬庫の10月限に火がついている。
生糸のほうは大量現受けを冷静に判断すると、相場的には悪い―と考えるのが当然である。
いうなれば生糸の買い仕手は、大の字に寝てしまった自分の蒲団(ふとん)を持ち上げようとする格好だ。
ただ一ツの気やすめは来年二月、三月頃になれば需給が締まるという希望的観測。
しかしこれとて、鬼の笑う来年の話だ。それより定評のある栗田氏の〝需給の読み違い〟に気づかず今の買い方は精神的支柱に遠い先の需給観を頼りにする。
栗田氏は需給の読み違いでした―で済むかもしれないが、巨額な資本を投下し金利・倉敷の時計に針に身を刻まれる側は、たまったものでない。
小豆は納会がないということは、まるで褌を締めていないみたいなもの。
それでも、下に行きたくないから戻してみようと、ただそれだけの動き。
下値は次期枠の絞り込みで抵抗。上値は今の相場にエネルギーがないため買い妙味なし。
ここのところ薄商い続きと相場妙味なしで、他商品(輸大、生糸、ゴム、精糖)に関心が移っている。
まして小豆は天候相場が終わって需給相場に移る。
これが秋底入れての相場なら強気もよいが決して底が入ったと思えない。いわば上げ底である。二万九千円を割らねば買っても駄目である。
●編集部註
栗田氏とは誰なのか?
インターネットがこれだけ普及している平成の御代でもあまり情報が出てこない。ただ鍋島高明氏の著作等から見て、どうやら栗田嘉記氏である可能性が高いと思われる。
以前、板崎喜内人氏の事を当欄で書いた。板崎氏が桑名筋と呼ばれていたのに対し、栗田氏は静岡筋と呼ばれていた。板崎氏と同じくノンフィクション作家、沢木耕太郎のインタビューを受け、その模様は「鼠たちの祭り」という作品で読む事が出来る。これは新潮文庫から出ているルポルタ ージュ集「人の砂漠」に
に収録されている。
手元の情報を総合すると、浮き沈みの激しい相場師であったらしい。1 972年に1週間で50憶負けたという伝説も残っている。沢木氏のルポでも、50億儲けた後に、61憶負けた件が話題に上っていた。その際のやり取りの一部は、鍋島氏の「マムシの本忠」(パンローリング)の中でも引用されており、この作品の裏側にも触れられている。