昭和の風林史(昭和五七年十二月七日掲載分)

一筆啓上小豆買い場待ち

小豆の六千円台がもし買えたら当たりクジである。人気が弱くなるほど先が楽しみ。

小豆に対する人気が、玄人筋ほど弱い。

二万九千五、七百円のあたりでカンカンの強気だった人達が掴まって辛抱している組と、投げてドテン売りに転換した組とがある。

二万七千円台を弱気する以上は少なくとも千丁下を考えての事であろう。

そのような値段があるかないかは判らない。

あっても自然だし、なくても自然である。

だから、あればあったでよしとする構え。なければないで、これまたよしとする陣構えでよいと思う。

相場というものは、迷いだしたらきりがない。

ああでもない、こうでもないと深い迷いの淵に沈む。

このような時のことを『秘伝気を転ずべし』と本間宗久は記した。

普通小豆相場のパターンは夏天井→秋底である。

今年はこのパターンが崩れている。やはり七月の解け合いが今もって災いしている。それと戦後最悪の不況も影響している。

秋底がズレ込んで波動論でいえば師走底なのか、明けて大寒あたりになるのか、今のところ、それは未開の波動である。

先週金曜日は久々の東西一万枚を越える出来高だった。か なり灰汁は抜けているのだが、なにせ打たれているのが玄人だから、ねばり腰がある。

これで先物七千二百円あたり以下に転げ落ちる下げが、もう一発くれば筆者のトレンドは申し分ない買い場になるわけだが、そのような下げは、いかな玄人といえど失神相場だ。

そのような時がきたら、これはもう大地を打つ槌(つち)は、はずれようとこの買いは金の延べ棒。絶対のチャンスである。

それまで“待つは仁”。弱気の嵩が一刻一刻とふえていくのを、ゆとりをもってみていること。だいたいそれでよいと思う。

●編集部註
 「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」
 日本語で書かれた最も短い手紙と知られるこの文章は、本多重次が長篠の戦いの陣中でしたためたものとして知られる。
 常在戦場という言葉があるが、相場もまた戦場の一つである。そういった意味でもこのタイミングで〝一筆啓上〟と始まるところに、今回の文章の深みがある。
 余談だがこの猛将本多〝鬼作左〟重次、徳川水軍の主力にと武田の旧臣、向井正綱をスカウトした人物でもある。その件は、隆慶一郎の未完の小説「見知らぬ海へ」の中で詳しく書かれている。