立春大吉小豆安・大豆高
輸大は、また押し目を買うのがよい。小豆は二月新甫天井か。努力相場もむなしい。
一茶は、春立つや愚の上に又愚にかへる―と。中国の詩人猛浩然(もうこうねん)の、春眠暁を覚えずは、旧暦四月頃の春日遅々の時分か。
寒(かん)が明けると、なんとなく心ほのぼのする。
相場市場のほうは全般、早春の閑である。
小豆相場は三晶が買っても反応がない。むしろ東京市場から気崩れの前兆(二月2日)を思わせた。
去年は二月10日に年間の天井を打っている。
大阪先限八千五十円割れから売り線。
薄商いを強気が努力して上げてきたが、まったく人気が寄らない。
反対に二枚、三枚、二枚、三枚と大衆筋が売り上がってきた。この大衆筋は、小豆戦線生き残り、相場上手の古兵殿である。九千円があっても売り上がるゆとりと楽しみを持った張りかただから勝てん。
連隊や師団の戦術は知らなくても弾の下をくぐってきた歴戦の下士官は今の小豆を善戦連勝している。だから、カラ鉄砲の買い煽りや、場勘計算の陽動など、昔の姿でやってますという、相場師の手の内を読みきって、怖がらない。
小豆は、へたしたら七千円割れに崩れる。
輸入大豆は、ますます大衆の買いが人民義勇軍のように増大する。
米国中西部の大豆主産地が、まったくの雪不足で、この分だと、播種後の土壌水分不足が怖い。
穀取相場は押し目を入れているが、新甫の夜放れ高で利食いが利いて、これからの押し目を、また仕込む段取りである。
売り方は、夜明けが怖い毎日。シカゴが五㌣、七㌣突き上げ可能な場味だけに、当方S高が、いつあってもおかしくない。シカゴ暴騰―朝まだ暗いうちから電話の入る日の朝食は、なぜか落ち着きがない。
●編集部註
同時代、同じ大阪で、しかも同じ大阪市内の投資日報とは目と鼻の先に新大阪新聞社があった。英国の「ザ・サン」のような大衆的な夕刊専売の新聞社である。
ここに風林火山とあまり齢の変わらぬ編集者がおり、毎週「週刊ファイト」というプロレス新聞を発行。〝活字プロレス〟の先駆けとして後年知られる。
片やプロレス、片や商品相場、ジャンルは違えども、あらゆる表現で場の臨場感を筆の力で再現するのは一つの芸である。
今回の小豆相場のヤリトリは、差し詰めレマルクの「西部戦線異状なし」か、最近はとんと劇場で観る事がないスタンリー・キューブリックの「突撃」か、いずれにせよ第一次世界大戦の塹壕戦での地獄絵図のようである。