昭和の風林史(昭和五八年十月二十日掲載分)

静中の動・閑中に激あり

やや寒の壁に動かぬ線の先。相場閑居して強弱なしというところ。待つは仁か。

俳句の季語に、やや寒、うそ(薄)寒、そぞろ寒など、同じ寒さでも微妙な違いを言い分ける。

相場の世界も値動きについて表現が沢山ある。緩い、小甘い、気重い、安い、崩れ、急落、惨落、暴落、崩落、瓦落、続落など昔は随分言い分けた。

『閑ですね』―と。取引員経営者は『困りますね』と、言葉が続く。投機家は『どうでしょう?』とあとに続く。

閑ですね、が日常の挨拶になっては困る。

閑な時はどうするかでその人の人間性が判る。

小人は閑居して不善をなす。しかし、小人罪なし玉を抱いて罪あり―などと、悪いのは玉のせいにする。

さて、小豆のほうだが、ここは小さな動き。

輸入枠が判るまでは強弱が決められない。

しかし大きな流れとしては下に向いていると思う。売っている人は在庫がたまるのを待つ。相場が疲れきるのを待つ。相場の世界で待つは仁という。

本当に下げだすのは来月に入ってからであろう。

そのためには買わせるところがなければならない。

それにしても、なんとなく野山の景色が肌寒い。

相場の世界は薄寒い。燈下親しみ秋の夜の酒は一人静かに湯気の上がる鍋の湯気など眺め、白菜も来月にならないと味がまだ出ないなどと思ったりする。

輸大のほうも中豆成約の様子眺めで、量的にどの程度になるかを知ってから思惑しても遅くないというのか、先限出来申さずでは、朝から気抜けする。

シカゴの線型は八㌦50以下に安住の地を求める姿で、トレンドも段々判りやすさを見せてきたから、八㌦割っていく成り行きだ。

ただしこれも日柄をかけながら重いという相場。

穀取輸大のほうは先限三百円以上の売り場待ち。

●編集部註
 当時の値動きを日足で見て、更にこの文章を読んで、行間から察するに本当に閑なのだなぁと感じてしまう。
 閑や退屈は逢う魔が刻。いらんことしぃで相場を曲げる事は多々ある。曲がるではなく曲げるだ。
 そういえばこの時期、田中角栄元総理がロッキード事件で実刑判決を受けた。更にその様子を写真週刊誌が隠し撮りし、大きな話題となった。
 これを基に原田眞人が「盗写 1/250秒」という映画を作り、201 6年にそのリメイクとして作られたのが大根仁監督、福山雅治主演の映画「SCOOP!」である。
 モデルとなった写真週刊誌「FOCUS」は既にない。諸行無常である。