泥鰌汁でもよい

なにかうまいものを食べて体力をつけないと、冬を越せなくなるのが老人である。
秋晴れてものも煙の空に入る 子規。
暑さは和らいで、かなり楽になった。
それで食欲が出てくればしめたものだが、そうはいかない。森永のビスケットを二枚ばかり食べて、インスタントコーヒーを飲んで出てくる。
世の中は、色々なことが起こっている。それに気をとられてはおれない。
もう九月ですか。暑かったのを忘れてしまった。人生は、そんなものですね。
体がきつい。要するにしんどい。会社に出てこないで、家の中で寝ておればよいだろうが、そうもいかない。
朝、家を出るのが八時。事務所の扉を開けるのが九時。
八十老人にとっては、苛酷かもしれない。
しっかり、なにかモノを食べてと言っても、なにを食べるか。会社の帰りに、百貨店の地下食堂街にでも寄ればよいのだが、それがしんどい。
それじゃ、ヘルパーさんに頼めばよい。それが面倒くさいのだから、仕方がない。
困った事ばかりであるが、自分でやっているのだから仕方ないとも思う。
夕暮れ時、電気も点けず、二上山から群れをなして烏(からす)がどこかへ帰っていくのを眺める。
既に、とっぷり日は落ちている。テレビもつけない。自然の中に過ごしている。ちょっと前まで、ちちろ虫が鳴いてくれたが、もう鳴かない。
これから寒くなっていくのであろう。ちゃんちゃんこなどを出しておかなければ―などと横になりながら考える。