決然買い方針 高々軍旗掲げよ
敵の大将は古今無双の英雄でこれに従うつわものは共に慓悍決死の士なるも無いもの売りだ。
「白雲は動き噴井は砕けつゝ 汀女」
山梨商事の霜村社長は次のように見ている。
①新穀限月の一万三千円台は仮りに豊作であっても割れない水準と判断している。天候相場はこれからが勝負である。一万四千円割れの新穀はどこを買っていても必ずモノになる。
②十月限は自分の計算では、それほど品物が余るとは思っていない。一万五千円以下は、あるだけ受けきる腹を決めている。また受けたものを現物でさばく自信も充分にある。
③自分は信念の強気である。世間では山梨は投げ出すだろうと見ているが私には私のファンもあり、また山梨商事には山梨商事を信頼しているお客さんがいる。その人たちのためにも私は私の相場観にもとづいた強気の信念を押し通す。
彼も相場師である。近藤紡がなにさ―という気概は充分に持っている。しかも彼は冷静である。
さて、小豆相場はいよいよ面白くなってきた。
各地に転戦する小豆の買い方中小の大名は、砂塵巻きあげかなり苦境に追い込まれたが、まるで勇猛なる猟犬の、怖いもの知らず怪獣にむらがるが如く近藤紡の売り玉に食いついた。
時に天は、いずれに味方せんや。相場は国の大事、死生存亡の道なり、察せざるべからずと教える。すなわち一に曰く道。二に曰く天。三に曰く地。四に曰く将。五に曰く法。
近藤紡が老境入りと見た小豆。確かにその通りであったが、弱気一色、総悲観総売り暴落二千丁崩しとなれば、老いた相場も再び生まれ変わろう。
彼に資力あり。われに天あり道あり法あり。
吾れは買い方我が敵は天地容れざる売り方ぞ、敵の大将たるものは古今無双の英雄で、これに従うつわものは共に慓悍決死の士鬼神に恥じぬ勇あるも天に逆らう無いもの売り。
前を望めば剣(つるぎ)なり右も左もみな剣。剣の山に登るのは未来のことと聞きつるに、この世において面のあたり剣(つるぎ)の山に登るのも、我が身のなせる罪業(ざいごう)を滅ぼすために非ずして売り方征伐するがため剣(つるぎ)の山もなんのその―。
抜刀隊の歌である。
さて、風にひらめく風林火山は再び強烈な強気方針を打ち出そう。
突っ込み買いである。
勝負勝負。運を天に冷害凶作念じながら突っ込み買い方針。
●編集部注
昨日の当欄では、信念の弱気論者による小豆相場見通し記事を掲載。
日を置かずして、今度は信念の強気論者の小豆見通しが載る。これが、バランスというもの。
売りの近藤紡、買いの山梨による大仕手戦は、差し詰め白兵戦の如し。
キツツキ戦法も、軍神謙信には通用せず。甲斐の武田本陣に、単身騎馬にて乗り込む、川中島のあの場面のようである。
相場はその前週、コツンと音がするような下げの後に反発している。
この時、買い方の心境や如何許りか。
もう一段の下げに慄きつつも、自身を鼓舞するかのように買いの旗印を掲げる。これもまた信念の成せるワザなり。
買い方は、さぞ心強かった事であろう。
【昭和四六年七月十四日小豆十二月限大阪一八〇円高/東京二九〇円高】