昭和の風林史(昭和四十六年七月一六日掲載分)

天に相場あり 強烈強気でよい

さらに判りやすくなってくる相場だ。大勢買い一貫でよい。信念の強烈な強気が勝つ。

「だぼはぜの尾びれひろげて釣られけり 俊晃」

土も草木も火ともえる。果なき曠野踏みわけて進む日の丸鉄かぶと―という歌の文句そのままの感じの市場である。

小豆相場の投機家は売り方、買い方ともに形相もの凄く、寄らば斬られそうな殺気である。

それで今後の相場であるが大局的見地から予測のもとにひと目ひと目読み込んでみよう。

大勢は結局上のものだ。一万七千円台の相場は夢に見てもよろしいだろう。

現在の波乱は、いわゆる本年最後の大仕上げ大天井打ちをするための下工作にすぎず、三段上げ一万七千八百円目標で青年よ大志を抱け―である。

目先巧者は戻り売り突っ込み買いでもよろしいが大きく取らねば取った気のしない向きには、どうだろう一升ビンを二本ほど横に置いておいて、まず目の前の一本から手をつける。

夜道に日は暮れまいというつもりでゆっくりやる。

ここからの買いなら、なんの心配があろうか。安ければ安いで阿呆みたいに買い下がっていく。

買い玉建てたら朝夕神仏に念願する。ストップ高三発低温冷害病虫害。集中豪雨に台風上陸。どうか市場が潰れるくらい火柱高を願います。これを繰り返せ。

馬鹿いえ、一升ビン抱いて冷害凶作願いますなどと神仏に念願かけていて儲かるぐらいなら誰が相場で苦労なんかするものか。

そう思うだろう。ところがさに非ず。マル増の増さんなどは、あの買い占めの苦しい時など奥さんと二人で朝の三時ごろから〝頼みます霜一発〟とお百度踏んでいて、遂に天も聞き入れ霜を降らせたことがある。

天に通じたか。

そうさ。石に矢の立つためしあり。

低温冷害病虫害、集中豪雨に台風上陸。ついでにおまけで早霜一発―ゴロがいいね(笑い)。

買い方に、はやりますよ、これに今流行の節でもつけて青江三奈か森山良子に歌わせたら…。

駄目だな、そんな軽薄なことでは。これはね口の中でぶつぶつ言わなければ。

さて、先に行っての天候は五分と五分というけれど、そうではない。相場の①玉整理が出来②水準を低くして③しかも安値を売りこんで④それが需給面が依然きゅうくつで⑤買い方強力仕手が健在でいる限りちょっとした天候異変でストップ高がつく。だからここからは強烈な強気方針である。

●編集部注

当時の風林翁、実に軽妙である。甲斐の軍旗は荒涼とした合戦場にたなびいている。

当れば軽妙になり、外れれば沈鬱となる、その文章の人間臭さよ。

ここでは「神仏に念願かけていて儲かるぐらいなら誰が相場で苦労なんかするものか」と嘯いているが、兎角、相場師にこの手の逸話は多い。

ある相場師は、売り出動する日の朝、一の谷の合戦で源義経が強行した〝鵯越の逆落とし〟の掛け軸を飾って、成功を祈願したのだという。

【昭和四六年七月十五日小豆十二月限大阪三五〇円高/東京一五〇円高】