昭和の風林史(昭和四六年七月三十一日掲載分)

駄目だ売りだ 必死の抵抗空し

遠からず勝敗は決するであろう。相場は大暴落である。新穀の四千五百円以下の値があろう。

「ゆうばえにこぼるる花やさるすべり 草城」

ようやく産地の天候は回復してきた。

産地の相場は瞬時にして値が消える。

八月積みで韓国小豆も五百㌧前後輸入されると伝える。もちろん北海道小豆の作柄は、よいはずがない。

売り方も、買い方も剣ガ峰での鎬(しのぎ)である。買い方を千仭の谷に突き落とすか、売り方を血祭りにあげるが。

東京も大阪もその取り組みは売り店が多い。完全に上長取り組みである。

買い陣営左の如し。

総大将―山梨。軍監―元帥・杉山山大。左翼―太平洋。本陣―土井。後詰め―丸松。右翼―阿波座組頭和歌山。前衛―大石。先鋒―脇田・乙部。予備―松亀、愛米。

その陣中にひるがえる旗印は真紅に染める金色燦然中空を飛ぶS印アロー(ストップ高の矢)である。

対する売り陣営左の如し。

総大将―岡地近藤紡。伏兵連隊―三晶。軍団忍びの者―三貴。前衛―カネツ、カネ貿、中食、山文。左翼―西田、中井。右翼―江口、櫛田。後詰め―豊、三好、石原、丸五。

その旗印はドクロ崩し。

〝風塵遠し三尺の 剣(つるぎ)は光曇らねど 秋に傷めば松柏の 色のおのづとうつろふを 漢騎十万今更に 見るや故郷の夢如何に 丞相病あつかりき。

清渭の流れ水やせて むせぶ悲情の秋の声 夜は関山の風泣いて やみに迷ふか雁は 冷風霜の威もすごく 守るとりでの垣のそと 丞相病あつかりき―〟

バックミュージックはき山悲秋の風ふけて陣雲暗し五丈原ではじまる土井晩翆の星落秋風五丈原である。

その相場如何。

値は荷を呼ぶ。昨今では海外から小豆がゾロゾロと入荷する。

日柄経過。すでに幾月ぞ高なぐれの現象無視することなかれ。

知ったらしまいと言うことあり。冷害不作は先刻織り込み済み。

相場は相場に聞け。相場は疲れ申した。

ケイ線は、あきらかに三山型である。しかもその三ツのそれぞれの山を眺めれば一ツ一ツが三尊型で五月19日の山。六月21日の山。そして七月12日の山。

戦況は売り方有利。売り方に三晶実業という伏兵連隊あり。川崎軍団忍びの者三貴あり。怪物近藤紡あり。遠からず勝敗を決せんか。

●編集部注

天下分け目の関が原。

小説の影響もあってか『赤いダイヤ』の頃の小豆相場が語られる事はあるが、この時期の相場が語られる事は、そうそうないのではないか。
会社ごとの売買手口が公表されていたからこそ出来る芸当だといえる。

今では考えられない。

【昭和四六年七月三〇日小豆十二月限大阪二一〇円安/東京一二〇円安】