昭和の風林史(昭和四六年九月十七日掲載分)

まさに暴力だ 穀取最後の場面

穀物先物市場が音をたてて崩れていくような感じがする。業界は最悪の事態である。

「秋山に秋山の影倒れ凭る 誓子」

穀取最後の相場。

小豆の取引所相場は、すでに相場というものではなくなった。

これは、あきらかに暴力沙汰である。経済行為の範ちゅうから逸脱していることは明白である。

市場の買い方大手は〝市場が潰れてもかまわない〟という無頼漢の如き態度だそうである。

それに対して穀物取引所当局者は、なすすべを知らない。

しかもある市場では協会長、市場管理委員長の店がなお、その立場(買い方)を利用して買い進み、煽りたてるが如き様子を示すなど、まさに市場の秩序は完全に破壊されようとしている。

売り方は、売り玉を手仕舞うにも制限値幅と売り物なしの場では、ただただ買い方の利食い手仕舞いを待つのみで、買い方が降りぬ以上、どこまでも値段を吊り上げていくしかない。

業界は今、ここに最後の場面を迎えつつある。産地業者の倒産は続出するであろう。また取引員は顧客との清算不能の事態に直面し経営の行き詰まりを招くことであろう。

そして、社会からは穀物業界内部の無秩序を深く刻みこまれ、およそ永久に信用の回復など望むべくもなくなる。

このことは、単に穀物業界のみならず全商品業界にも波及するわけで、商品業界は、過去に例を見ないほどの憂慮すべき危険な事態に置かれることになろう。

取引員は業界存亡の今、あげて無頼漢の如き強欲な買い方を断固として引きずり下ろさなければならない。

また、理性と良識を常に標榜していた買い大手取引員は、なにを置いても買い玉を降りるべきであり現物価格を煽ったりするような暴力は真に戒めるべきである。

穀物先物市場は恐らく潰れるであろう。

社会からの不信感。業界内部の信用不安。取引員および業者の倒産。主務省当局の圧力。

われわれは不吉な予感がする。

穀物先物市場が音をたてて崩れていくような気がする。

●編集部注
その昔、鈴木商店という総合商社があった。

その大番頭を勤めていた人物が金子直吉。明治大正期に活躍した投機家としても知られている。

先月、高知新聞社から刊行された鍋島高明氏の「大番頭金子直吉」をいま読んでいるところ。

その序盤、金子が新米投機家だったころ、樟脳のカラ売りで大損する話が出てくる。この時、金子は懐に短刀を入れ、切腹覚悟で買い手との解け合い交渉を進めたという。

当然、昭和四六年にそんな人物はいなかった。

【昭和四六年九月十六日小豆二月限七〇〇円高/東京七〇〇円高】