昭和の風林史(昭和四六年十一月二日掲載分)

反騰相場近し 金曜後場S高か

大台五ツ変わりの下げとは実に気持ちがよい。そしてこの反動高は今週金曜日から始まる。

「文化の日をみなひたすら菜を洗ふ 桂子」

十一月一日、抜けるような青空。新ポはストップ安に叩き込まれた。なんと、この期におよんで二連発である。

名古屋の小豆の仕手、いうなら本年の儲け頭(がしら)である板垣氏が東京で、大阪で、名古屋で、凄絶(せいぜつ)な、ぶん投げである。見ていても気持ちのよい投げっぷりである。彼は、やはり相場師だ。

明日三日は昔で言う明治節。われわれは「亜細亜の東、日出ずる処、聖の君の現われまして古き天地とされる霧を大御光に隈なくはらい教あまねく道明らけく納め給える御代尊」―と歌ったものである。

さて、大阪京橋のA氏も、ぶん投げたらよいものと思い電話したところ、なかなか、彼は意地天を衝く勢いである。少々焼け気味かなと思ったが、ここに来て腹が据ったのかもしれない。確信と信念を持っている。市場では、あそこがぶん投げたらこの相場買いだ―というがA氏にその気配はない。

東京山梨の霜村昭平氏も『私が印(しるし)をつけていたところにやっと来ました』と、よろこんでいた。壁のケイ線に、ここまで来たら買うのだ!!と印がついている。今まで休んでいたが『これで市場も存続できるし、一万六千円以下の小豆はあり得ない需給数字である。私は久しぶりで情熱が燃えてきた。現物市場では定期よりたえず上だし、実によく売れている。中国も早い目に売った格好で、この相場大台五ツ変わりだ。上げもきつかったが下げもきつい、これが相場です』―。

ともかく十一月新ポは天気はよいし、儲け頭が鮮やかなぶん投げを見せるし、ストップ安だし、こんな気持ちのよい日は珍しい。

本紙はこの十五日で創刊満十周年である。一日は紅白の祝饅頭を百数十個買って、昼食は全社員赤飯にする、大きな瓶(かめ)に入っている支那の名酒・紹興酒も抜き、夕刻からささやかな内輪の宴を張る。

まさに〝蘭陵美酒欝金香・玉椀盛来琥珀光〟である。

紹興酒は、ひとかかえもある瓶(かめ)だから当分は汲めども尽きない。

それで小豆のほうだが、ここを買わねば。言うなら嬶質である。二度目の―。

●編集部註
中国では、子供が生まれると酒を瓶ごと買い、寝かせ、成人や結婚の席で振舞うのだとか。紹興酒ならば、その頃には熟成して老酒になっている。

あの当時と、10年酒程度ならすぐ手に入る現在とでは隔世の感があるが、この時日中共同声明まで1年足らず。

案外この時、今よりも上物が呑めたかもしれない。

【昭和四六年十一月一日小豆四月限大阪一万六一九〇円/東京一万六二二〇円】