昭和の風林史(昭和四六年十二月一日掲載分)

孤独な買い方 栄光なき英雄たち

われ急降下せんという顔つきの小豆相場だ。上昇せよ軍曹―と管制塔で叫べども機は降下す。

「玻璃窓を鳥ゆがみゆく年の暮 三鬼」

これからの日数の過ぎて行くのは早い。気がついたらもう当限の納会だったりする。相場のほうは閑になった。買い方の巻き戻しも環境に逆らって、のべつ幕なしに行うわけにいかない。つらいところである。

高くすると、輸入を刺激する。さりとて値崩れすれば取引所にはこぶ為替が大変である。孝ならんと欲すれば忠ならず、忠ならんと欲すれば孝ならずという格好だ。

十二月限は買い方にとって制空権下にあるため自信をもっているだろう。だから、むやみにカラ売りしてくる人もいない。君子危うきに近寄らず。

不需要期の二月限、輸入ラッシュの三、四月限そしてきょう生まれる五月限、やはり狙撃兵の一発を狙われる限月だ。

聞けば大衆筋はどこも値ごろ観の買いしたいだそうで、押し目買い気分が強い。

しかも一、二、三月限などは、はるかなりわが買い値は雲の上―、三千丁替え引かされた玉もまだ多い。

二月限の二万円、二万一千円という雲にそびゆる高千穂の高嶺おろしに草も木も、というあたりは、もう鳥もかよわない。

そういう〝色あせた買い玉〟を〝孤独な強気〟筋がどこまで辛抱するかである。

〝擲弾兵ローラン〟〝何故にわれらは戦うか〟。それはまさに〝時刻表のない列車〟を待つかの如く〝続行せよ軍曹〟、〝コンドル師団全滅す〟まで〝栄光なき英雄〟たちは〝落ちた偶像〟を〝軍旗の名誉のため〟に支えるのである。

若きパルチザン。帰らざる河。年とった相場師。呪われたケイ線。M軍団苦戦なり。相場は誰のものぞ。深淵の底に。苦悩への道。幻滅の時。絞首吏もまた死す―。

なんと古き映画の題名がいちいちピッタリ当てはまるから面白い。

四月限は五千七百円までの窓を埋めて、五千五百円で抵抗がなければ五千三百円に垂れ込もう。

ここで逆に六千三百円→五百円と竹槍作戦で突撃してくれば必殺のマシンガンが火を噴く。

●編集部注

黒澤明の映画音楽を担当していた作曲家によると、ある合戦シーンに音楽をつけて欲しいと頼まれフィルムを見ると、既にスッペの軽騎兵序曲が入っていたのだという。

黒澤明はこの年1971年12月下旬に自殺未遂事件を起こす。

今回の文章は映画のタイトルまみれだが、読んでいて軽騎兵序曲が流れてきそうなリズムだ。

頭の中で音楽と共に、鵯越の逆落としの一場面が映っている。

【昭和四六年十一月三十日小豆四月限大阪一万六〇二〇円・四〇円安/東京一万六二五〇円・一〇円安】