年内余日なく 売り余地もなし
まさに一触即発。物情騒然という言葉がそのままあてはまる環境である。買い方針。
大東亜戦争が始まったのは三十年前の今日であった。
その日は月曜日(アメリカは日曜日)、関西地方は冬晴れの好い天気であったと記憶する。
商品取引所はすでに戦時の統制経済下、すべて閉鎖されていたので影響はなかったが、支那事変の長期化、日米交渉の難航、そしてヒシヒシと迫る海外からの経済圧迫の前に沈滞低迷していた株式市場は、緒戦の大勝のニュースを入れて、国力再確の形となり俄然活気を取り戻した。
そして人気株の東新株(東京株式取引所新株)、郵船、商船株などを中心に急騰を演じた。
三十年経過して今ふりかえれば、この間の歳月はまさに「黄粱一炊の夢」でもある。
年月は変わっても変わらぬのが世界中の国と国とのイザコザ。民族問題や宗教問題、それに思想問題もからみあって解決するよりも紛争の燃えあがる方が早い。
中東もいまだにくすぶっているし、ベトナムでも下火になったとはいえラオス、カンボジアまで戦域は広がっている。それにインドとパキスタンが全面戦争となり、さらにお隣りの韓国では「非常事態宣言」をするやら地球上は物情騒然である。
ゴムに火がつき綿糸が上がり、生糸や砂糖が一斉高である。本紙の六日の取引所相場欄をみても値下がりのシルシのあるのは各地の手亡だけだ。
とにかく、また世界は中国の国連加入と相前後して三十年目に大きな転機にきているように思われれる。
さて相場であるが、前記の韓国の非常事態宣言が即輸入おくれや制限などにつながる。そのうえ韓国の事態は当然、北朝鮮、台湾、中国にも大いに響くという連想がエスカレートして熱気を帯びてきた。
交易会での大量契約で弱気した投機家は十七日の農林省の発表と、これからの高値は商社筋の売りつなぎが出てくるということに一縷の望みをかけて、まだ戻り売りと考えているようだが、情勢は急変している。
来年のことは来年の話。年内は強気を通すべきだ。
約二カ月、売り方の跳梁になすすべのなかった買い方の鬱憤が一気に爆発する地合いになったと見る。
●編集部注
やはり、十二月八日の文章は大東亜戦争の話題であった。なお、真珠湾攻撃の日は、ジョン・レノンの命日でもある。
戦時下の証券、商品取引の話が読めるのは非常にありがたい。その当時のデータがあると、なおありがたい。昔の証券会社の社史に、付録で価格データ等があると、そこだけ光り輝いて見える。
【昭和四六年十二月七日小豆五月限大阪一〇〇円安/東京二五〇円安】