昭和の風林史(昭和四六年十二月十六日掲載分)

早耳の早倒れ と、いう事もある

野も山も弱気一色という感じの小豆相場だ。明日の数字が丁と出るか半と出るか。

「冬菜畑天草灘に傾ける 雨石」

きょうあたり(16日)、あすの農林省発表数字が、どこからとなく洩れでてくるのではなかろうか。いわゆる早耳と称するもので、案外とこの種の早耳情報は正確であるから面白い。

しかるべき筋に手を打つ。これは誰でも一応は考えることだ。大学入試の試験問題でさえ、お金で買える世の中だ。農林省の役人の集計する収穫数字ぐらい一、二日早い目に知ることだって出来よう。

きょうの後場あたりから明日にかけて、相場つきが変わってくれば、早耳筋の数字入手による動きと見るべきかもしれない。

とにかく発表数字の額によって新たなる大暴落かもしれず、逆に様変わりの出直りにつながるかもしれない。

玉整理のほうは、かなり進んで、新規売りが目立った。

買い方としては反撃のチャンス、糸口をつかもうとするけれど、目立って買えば価格操作だ、買い占めだ―と、わけの判らん連中がわめきたおす。馬鹿げたことである。買うのは罪悪で売り叩くのは価格操作でないという理くつが判らん。

思えば現在苦境にある買い方だが、なまじかけた薄(うす)情けが命取りになった。飛ぶ鳥落とす勢いの二万円、二万一千円の時、市場があぶないという声に、中途半端な抜け解け合いをした。買い方は良識の名のもとに、売り方に同情して、とどめを刺さずに解け合って情をかけた。

売り方はその時、解け合ってもらいながら、買い方に対して悪口をいったものだ。

あの時、買い方が、中途半端な情けをかけずとどめを刺しておけば、全玉逃げられたことだし、尨大な利益を計上していただろう。戦国乱世の時代、勝者は敗者に対して必ず徹底的にとどめを刺したものである。

それが自己保存のためであることを知っていた。

言えることは、買い方は〝勝ちを勝ちきれず〟掌中の玉を手の平から逃がした。そのとがめが今きているのだ。なにごとでも勝負の世界は中途半端が命取りになる。そのことは脳裏に深く刻み込んでおかなければならない。

勝負師に情けは禁物。

相場のほうは明17日の数字次第というところ。値段はとどいているが…。

●編集部注

「9勝6敗を狙え。8勝7敗では寂しい。10勝を狙うと無理がでる」。小説家にして勝負師、色川武大の格言である。

【昭和四六年十二月十五日小豆五月限大阪一六〇円安/東京六〇円高】