昭和の風林史(昭和四六年十二月二十四日掲載分)

依然戻り売り 底抜けの相場だ

反発したりするところは戻り売りで狙われる。万人底入れとみれば、その底は抜けるものだ。

「真黒き冬の海あり家の間 虚子」

相場師・伊藤忠雄氏が藤倉を舞台に活躍した当時だから、もうかなり昔である。
強気して、相当の買い玉を持っていたが、暴落に次ぐ暴落、当時では恐慌的大下げ相場に見舞われた。

伊藤氏は、その時どうしたかというと、誰でも、もう底値圏、一応止まるところと見ていた大安値から、買い玉をひっくり返して、新規に売って行った。

相場は、万人が底値と見たその水準から、さらに大幅に崩れて行った。

相場は環境がすべてに優先する時がある。大量の玉を投げても下がらん時があれば、また、どれほど現受けして買いまくろうとすぐにへたってしまう時もある。

けだし、相場は相場に聞けとは名言である。

どうだろう、この今の相場。大底がはいったと見る人もあれば、下値は予想以上に深いと見ることも出来よう。

よく、こういうことが言われる。

売り方が、その目標値を達成して、利食いしたあとが本ものの下げだ―と。それからの下げのほうがきついのである。

六千円台、七千円台の因果玉は、かなり整理はされたようだが、まだ残っている。そして主力買い方の玉は、まったく未整理のままである。非情のようだが、この玉があるうちは戻しても再び売られる相場で本格的な出直りとはならないだろう。

66万五千俵収穫発表を買い切れなかった相場である。相場は死んでいる。

もちろん輸入ラッシュは峠を越した。そして叩き屋は安値を売り込んだ。下値にきてジグザグ足踏みしだした。一連の動きを見ていると目先的には小康を得たかのようだ。

しかし本ものだろうか。年内は、なんとかこれで越しても、明けてから悪さが表面に出てくるような感じがしてならない。

一、二、三月限は高値取り組みの限月である。しかも需給相場である。現物の売れ行きは必ずしも好転していない。そして先行き、契約済みの輸入小豆が入荷する。

新春から建て玉制限は緩和されるが、売り方にも買い方にも、これは同じ条件と見るべきであろう。

相場は反発しても、下値は深いような気がする。

●編集部註
 冒頭「損切りドテンは福の神」が実践される。と書くのは簡単だが、やってみるとものすごく怖い。

 曲がり屋は、よく往復ビンタを喰らうからだ。

 突き詰めると、相場は人間修行であると悟る。ただその時、悟り人の大半はお金が残っていない。

【昭和四六年十二月二三日小豆五月限大阪四二〇円高/東京四一〇円高】