昭和の風林史(昭和四七年一月十七日掲載分)

将軍突撃せり 断末魔の特攻隊

断末魔、買い方の沖縄特攻作戦は、原爆投下の近からんことを思わせた。ああ将軍突撃せり。

「一枚の障子明りに冬ごもり 幸男」

東穀一・一二ハプニングが業界で取り沙汰されている。筆者は12日大引けの立会いを、東穀立ち会い場で見ていた。

山梨の場電側から、場の中全体に聞こえるように幾ら幾らで千枚買い―と叫ぶ。山大側の場立ちも踊り出てきて大きく千枚買いの手を広げる。

売り方は、ワッと両社の場立ちに売り玉をぶっつけるが、売り物はとだえる。

場の中は一瞬、無気味な静けさになる。あと売り物が出ない。山梨、山大の場立ちの顔は緊張で引きつっている。

五秒、十秒、十五秒、売り物は出ない。

東穀市場関係者も血の気が引いて青ざめた顔である。

山梨の場電が買い物を引っ込めた。瞬間、場の中がほっとする。

山梨・山大が値を吊り上げて買い進んでいけば殺気に満ちた売り物が両者の場立ちを包むだろう。三月限がそうであった。だから四月限は、一本値二千枚の買いで突っ張って支えた。

立ち会いは五月限に移る四月限同様、山梨、山大千枚、千枚の買いである。筆者は、満身創痍の買い方が沖縄特攻作戦に出た感じを受けた。

断末魔の抵抗である。

六月限も同じように二千枚の買いを示した。

市場の中は一種言いようのない不吉な空気に包まれ非常ににあと味の悪い、気まずさを残して手亡の立ち会いに移る。

地で地を洗う大仕手戦に、ハプニングはつきものであるが、東穀一・一二事件は大きな問題を残した。

相場は冷静を必要とする。狂ったようなこの抵抗は感情の叩きつけにしかすぎない。売り方に対する威嚇(いかく)に見えて、実はそれは、買い方自らの最後の燃え尽きんとする焔を見破られたにすぎないのだ。

筆者は思った。ああ将軍突撃せり―と。

まさしく買い方、断末魔の沖縄特攻作戦だ。

相場は戻すほどあとが、さらに悪いものになるだろう。原爆投下は時間の問題である。

●編集部註

手振りの世界である。

コンピューター処理の今とは、全く違った緊張感があった事であろう。

相場をかく乱するために突拍子もない注文を出す事を「乱手」という。

この注文、乱手と見られてもおかしくはなかったものと推察される。

ただ、この買い注文に売り方は喰らいついた。

直近安値は十二日。そこから週末十四日まで、出来高は順に九千五百枚、五千枚、三千枚と続く。

一方取組は二万枚から二 万一千枚へ増加した。

これが何を意味するかは、後々判ってくる。

【昭和四七年一月十四日小豆六月限大阪一三〇円高/東京一〇〇円】