昭和の風林史(昭和四七年一月二十七日掲載分)

勝利なき工作 どこまで続くか

においのする手口ばかりである。相場は疲れつつあるが工作が利いているあいだは逆らえない。

「火を焚いて下る舟あり枯柳 法舟」

二枚腰で買い方は納会を受け切った。

大阪当限納会は百四十三枚の〝カイはな〟(百四十三枚の売りものがあること)までいったが丸五商事が八十八枚取って一万五千四百三十円の納会。

この日、大阪では阿波座の山三印の買い手口が全限にわたって注目された。先週後半、買い方の増山氏が、阿波座で桜井氏と会談したことから、なんらかの密約が取りかわされたと予想されている。

相場社会は面白いもので〝きのうの敵が、きょうの友〟になったり、〝きのうの友が、きょうは敵〟になるもの。変転常なきがこの世界である。

そして強きに味方し、弱きを蹴飛ばす。勝者が正義である。故に、〈なにがなんでも勝たねばならない〉。

敗け犬は尾っぽを巻いて遠吠えすることになっている。

従って、市場で聞かれる先限の一万六千円目標も、あながち無視出来ないものがある。

強い者が正義である以上正義に味方して、きのうの弱気、きょうは一万六千円目標と、手の平返しても、無節操とは誰も言わない。友情は利にあり。勝者が正義。そう割り切り。

さて、数日来、各節の手口は、臭(にお)いがしてならない。

東京では山大、山梨、太平洋、丸梅、マルホが活発だ。大阪では、いわゆる阿波座筋。山三、木谷、和歌山、乙部、広田、丸神、松亀など。一脈も二脈も通じた仕事師の仕事が進んで、それに、ちょうちんがついているという格好だ。

いうなら、ある特定の〝小豆エリート〟が相場を自家薬篭(ろう)中の物としている感じを受けないでもないが、大衆の遠ざかっている現在の穀物市場ではそれも一ツの成り行きによる現象といえよう。

さて、ともすれば下げようとする自然の動き(そう見える)を、ここで下げさせてならじと、強力なテコ入れがあって、筋の買い物が値段を突き上げたり、吊り上げたりする。

相場が、そういう動きに〝なびく〟あいだは、まだ本当の疲れが出ていないのかもしれないが、筆者には〝勝利なき工作〟としか映らないのだ。

●編集部注
 戦国時代、一騎駆けは戦場の華といわれた。

 昔の商品取引における戦場の華は〝ハナ取り〟かも知れない。板寄せ取引の時代の話である。

 当時、箱崎にあった東工取にゴムの板寄せ取引を見に行った事がある。

 取引開始と共に中央の職員が大きな板を叩く。

 その両脇で算盤を持った職員二人が買いと売りの手振り注文を勘定。両者の注文が揃うと、大きな板を叩いて取引終了。

 その立会いの一挙手一投足は、独特の節回しで各取引員に実況中継され、取引員は、更にその動きを各支店に中継する。

 スピーカーから流れるその独特の節回しを、外務員は電話で顧客に伝える。この行為を〝場を通す〟と呼んでいた。
 
ハナ取りは売買注文の出っ張りをごっそり引き受けるという事。顧客の意を受けて、外務員は市場部に高らかに宣言する「そのハナとったぁ!」。

 丸五の注文がもし委託玉なら、通した外務員はさぞ気持ちよかったろう。

【昭和四七年一月二十六日小豆六月限大阪四四〇円高/東京六〇〇円高】