昭和の風林史(昭和四七年二月二一日掲載分)

惨落待つのみ S安含みの場合

買い方仕手はミシミシと俵の重みを感じている。そしてまた新たな俵が上積みされるのだ。

「山焼の明りに下る夜舟かな 一茶」

土曜の朝商社筋に続々と中国小豆の契約電報がはいっていた。

条件は天津トンあたりFOB一七八ポンド。山東一七六ポンド。いずれも3~4月積み。これは旧正月前の契約条件とおなじで、中国は各社のビッドには全量受けの態度だという。従って成約量は相当量になりそう。

観測筋では旧正月前の分と、正月空けての分とで一万㌧弱の契約になるだろうと見ている。また、中国側の小豆の売り腰を見ていると、売れ残りの品を処分しているという感じを受けないそうで、東北小豆が控えていることもあり春の交易会でも、意外な数量が日本側のの出方によっては契約されるだろう。

この日(週末)、小豆相場は薄商いの大阪市場で西田の手が踏んでいた。この店の売りは有力な三、四の顧客筋によるものだ。以前だと、西田の店の売りは三、四百名の顧客(一人当たり小額枚数)であったが昨今は、そうでないようだ。

さて、産地相場も力を失っている。強引に持って行こうとするけれど、相場そのものは、やはり空虚さを隠しきれない。

消費地市場も前週金曜と土曜と二本の陽線で逆襲してみたが、やはり基調は下降期にあり、相場が明らかに疲労しているということを感じる。

一般的には輸入採算値一万五千五百円以下は、抵抗があるという見方をしているが、実勢(供給にゆとりが出来る)が緩和してくれば輸入採算値など無視して値崩れするのが先物取り引きである。

しかも買い方仕手は十二万俵の重味をひしひしと感じる時分で、ミシミシという音が聞こえる。

一日持てば一日倉敷料が重くなる。目に見えない経費(金利など)。それこそ知らぬ間に千丁替えぐらい引かされてしまうのである。

この仕手は勝てない。そして相場は一万四千円割れに落ち込むことであろう。

ただ、一般は、うかつに売ると、ひねりあげをくらうため、それを警戒しているだけで、崩れが見えたら、すかさず総売りとなるだろう。

●編集部注
〝崩れが見えたら、すかさず総売り〟とは、チャートパターンにおける「小石崩れ」の事を指す。

 文中に登場する〝西田〟とあるのは西田三郎商店の事であろう。北浜にレンガ作りの瀟洒な店舗があった事を記憶している。今もあるのであろうか。

 商品先物取引は、大半が納会までに差金決済されるので、倉荷証券を巡るやり取りである事を知る人は意外に少ない。

 貴金属は腐らぬが、穀物はそうは行かぬ。倉荷証券の重みがちと違う。

 【昭和四七年二月十九日小豆七月限大阪二〇円高/東京五〇円安】