昭和の風林史(昭和四七年三月二四日掲載分)

本尊至極健在 だが鬼哭愁愁たり

相投げで整理完了。順ザヤの魅力。悪材料織り込み。小豆は正常化しつつある。反騰近し。

「木蓮のごはと崩れし宙宇かな 草城」

山大は山梨に疎開させてあった玉を、相場の落ち着きを見て、引き取った。見ていると、22日の後場から23日の朝にかけ東西両市場で投げ遅れの玉が、ぶん投げていた。これで、投げるべきものはほぼ投げ終わったと見てよい。

山梨は修羅の巷と化した穀物市場で、だんびらを引っさげて、駈けまわっている。今までに出たこともない店から山梨の玉が出ている。

相場師は、こういう相場になると血が沸騰する。馬ふれれば馬を斬る。人ふるれば人を斬る。

増山真佐四郎氏は健在である。巷間、いろいろな噂が尾とひれをつけて流れている。しかし健在である。もとより戦線は縮小している。だが追証が追証となって追いかけても、その前に計算が出来ていて、きちんと請求される前に納入する。

これだけ打たれても秩序は乱れていない。さすがである。しかしその心中、まさに鬼哭愁愁たらん。

孤軍奮闘囲を破って帰る一百の里程塁壁の間、我が剣すでに折れて我が馬たおる。秋風骨を埋づむ故郷の山。

山大商事は陣雲暗く五丈原、蜀軍の旗光なく鼓角の音も今静か。

目を相場に転ずれば

1・逆ザヤが順ザヤになった。
2・小豆の値段としては革命的低水準だ。
3・内部要因は総投げにより整理終了。

そうして、証拠金も四万五千円ぐらいになるだろう、いずれは。

輸入小豆の格差を三千円ぐらいにすることも考えられよう。

新しい強力な仕手が介入してこよう。その気配充分(たとえば岡地中道氏あたり)。

当面の材料は輸入ものの入船がピークに向かう。およそ一万㌧。この荷圧迫が四月上旬に来る。そして15日からの交易会。

悪材料の尾は五月中旬ごろまで、ズルズルと引きずられる。が、需要期→安い→売れる。北海道の天候は悪い。春耕遅れは必至。悪材料は織り込まれつつある。

時間はかかるかもしれないし、期近二本はまだ安値を残すかもしれないが正常化しつつある現在の小豆相場は必ずや見直されて三分の一戻し二千丁幅の反騰場面が予測出来る。

●編集部注
 〝鬼哭愁愁〟とは何か。 悲惨な死に方をした浮かばれない亡霊が悲しんでシクシクと泣く事。
 三省堂の新明解四字熟語辞典を引くと、その用例として杜甫の詩や、小説「ビルマの竪琴」が紹介されている。
 太平洋戦争を経験している人間がこの表現を使うと、なんだか重みと深みが違う気がする。

【昭和四七年三月二三日小豆八月限大阪四〇〇円安/東京八〇円安】