昭和の風林史(昭和四七年四月十七日掲載分)

茫茫漠漠たり S安必至の段階

チンタラ峠の相場はチンタラ、チンタラと下げていく。全限万円割れに突入しよう。

「一弁のはらりと解けし辛夷かな 風生」

週末は、まさしく、はらりと解けし辛夷(こぶし)かなの風情だった。

先限は新安値引け。ケイ線でいうと非常に悪い姿である。

交易会がはじまって、今週にも、かなり契約が進みそうだという空気。それで今週ストップ安でもあれば―という片寄った人気である。大阪阿波座は、引かされながらも強気を唱え、ストップ安なら絶好の買い場だという。

あるいはそうかもしれない。しかし、それは新規買いではなく、売り玉の利食い場という意味に受け取ればよい。

もちろん、全限の万円割れから、自立的な反動高はあるだろうが、利食いしたあとの戻しは、再び決定的な売り場になるのだ。

見ていると、大きな売り物が出るけれど、値ごろ観の買い物が、ひきもきらない。

セールスの営業テクニックとしては、お客さんに売りをすすめるよりは、半値になった相場で、天候相場も近い。千円ぐらい引かされるつもりで買い下がれば―という。相場の表面現象の説明で、買いをすすめるほうが注文も出やすい。

本当は、ここから売るのが相場なのであるけれど、クロウトでさえも売りにくい値段である。

だから売らなければならないと言っても、それでは注文が出ない。

わらわらと、わらでも掴むように買うのを見ていると、この相場は根が深いと思うのであった。

聞けば北京商談分の入船があいついで四月の在庫は、さらに増加しそうだというではないか。四月末三十五万俵ないし三十七万俵在庫となれば、まさしく出盛り最盛期の観である。そして交易会で出来、あとまた北京商談。そして台湾大増産。コロンビア産の入荷と続けば北海道の天候が、仮に悪くても、どうということはないし、東北六県の肥後熊本も大増産となれば、九千円台が底値などといってはおれない。さらに北海道が平年作、あるいは豊作ときたら、チンタラ、チンタラ値が消えていくのみである。

値ごろ観など通用するご時世ではない。

男子志を立てれば値のあるうちに投げよ。そして海中に飛び込む思いで売れ。戻れば盛(もり)のよさをよろこび、また売るのだ。

●編集部注
 ここまで売りと書かれると小気味がいい。

 この当時、この文を朝に読んで「おのれ風林火山め」と悪態をつく、買い推奨の外務員さんの姿が目に浮かぶようだ。

 またこういう時の分析ほど良く当る。そうなると益々憎らしくなる。

【昭和四七年四月十五日小豆九月限大阪一六〇円安/東京二一〇円安】