昭和の風林史(昭和四七年九月九日掲載分)

凋落一途小豆 手亡良い所なし

こう人気が離散しては仕掛ける気も起こらん。あきらめムードが支配する穀物相場である。

水は高きから低きに流れる。金は儲けを生むところに集まる。そして相場の人気は動く銘柄に集中する。

赤いダイヤと言われる小豆の人気も値とともに凋落の一途を辿るのみで、これでは如何な小豆相場マニアも脾肉(ひにく)の嘆(たん)をかこつばかりである。ないものは石川五右衛門でも盗めないのが道理。こう無相場状態が続くと売っても買っても儲からない。

大勢まだ下値があると信念を持って売っている弱気にしても、やはり怖いのは「霜一発」である。

これまでの今年の天候が気象台の長期予報を完全に裏切った豊作型となって一点非のうちどころがなかったわけだが、彼岸ごろまでにもし強い霜でもあれば豊作が一転して平年作、あるいはそれ以下になりうることもある。

今年は二十二日が中秋の名月。月見である。そして翌秋分の日が満月。霜は闇夜におりず、月夜におりることが多い。

このあたりを無事済ますまでは、この勝負下駄をはいてしまったわけではない。

もし霜があったらどうなる。

戻り売り人気、売り安心人気が市場に溢れていて、知らず知らずに売り込んでいるだけにイレ殺到で一万円台回復ということにもなろう。

早霜もなく収穫が終わったら、逆にトドメを刺された買い方の一斉投げが集中して先限の七千円そこそこという値も覚悟せねばならない。

弱気も今この値では売りにくい。強気にしても大きなダメージを受けたあとだけに霜一発に過大な望みを託することも不可能なのが実情。

だから売り買いとも手仕舞いが主で、値も各節の玉の出ぐあいによって小浮動している。

小豆も小豆なら、頼りにしていた手亡も全く不甲斐ない。

しかし手亡の方は来週十三日の全穀連の会合で、ピービーンズの格下げ三千円が決定すると、輸入物が到底入ってくる値段ではないだけに多少の反発は見込めよう。だが上値にはカンヌキを入れられているので、よく戻って先限の七千円か。

こう考えてみると穀物市場から投機資金が他の商品に流れ出てゆくのもまたやむをえないことでもある。

●編集部注
 赤いダイヤは本当はもう赤くない。市場を照らす夕陽が、ただ赤く照らしているだけではないかと思い始めている様子。

 神々の黄昏だ。黄金の指輪を手に、ヒロインはは炎の中に消えていく。

 小豆相場の物語は終盤に向かっている。裏返せば、新しい物語が始まる。

 これからその光景を、我々は読む事になる。

【昭和四七年九月八日小豆二月限大阪七九三〇円・八〇円安/東京七九七〇円・三〇円安】