昭和の風林史(昭和四七年十月八日掲載分)

遺恨なり磨く一剣狂気の二、三年組

本忠、神部の決闘 主務当局狼狽の極 =力物産事件=

小豆相場は上値を追って買うのは危険である。底は入っているが、あくまで押し目買いである。

「稲雀降りるとするや大うねり 鬼城」

六日は面白かった。大阪穀取が開所20周年記念の式典とパーティーをロイヤルホテルで行なっている時、他市場の小豆相場は山梨商事の強気転換でストップ高するなど、なかなか味な事をする。大穀は後場休会。阿波座のボスたちはモーニングコートを着用して、水割りウィスキーで顔を赤くしているが、心の中はパーティーもうわの空。まるで阿波座の留守を狙って火をつけられたような格好だった。

一方、株式市場は円の切り上げ説で急落。生糸も、毛糸も乾繭もゴムも急落。大石商事の大石社長などモーニングの裾を引きずるようにパーティー会場から出たり入ったり。廊下の公衆電話で相場動向に気もそぞろの様子。

パーティー会場は、きわめて盛大であった。あきらめていた小豆相場が暴騰したことは、取引所関係者にとって、それはまるで祝賀の打ち上げ花火のようにも受け取れたことであろう。高い事はいい事だ。

だが、このパーティー最中、全協連首脳者は、三時半から別室〝桜の間〟での「力物産にかかわる神部氏の〝恐れながら農林大臣殿〟直訴問題に関連して本田忠氏および関門商取ならびに主務省当局の以降に関しての状況分析」についての情報集めや根回しに、なんとなく騒然としていた。

神部茂氏の恐れながら農林大臣殿の直訴事件はくわしくは七日付け「株式新聞」にも書かれていたが①力物産は営業権譲渡に関して二重契約だ②関取当局が不当な圧力をかけた―というもの。

成り行きは大臣→次官→局長→課長→全協連という式で、主務省当局は事を表面化せず、善処せよという命令。

桜の間には山本、清水、山口全協連首脳および吉次大穀常務ほか三、四名が鳩首して状況分析をしていた。事は九州岡安整理にもからむ複雑なものだけに全協連当局も慎重にならざるを得ず、また主務省当局も許可前後当時から今日に至るまでの、おざなり行政がにわかに表面化しないとも限らず、神部茂氏の出方。本田忠氏の態度、全協連の調停。金山・吉次両取引所常務の行動。

そして福田・宮崎両氏の考え方によって成り行きはどうにでもなろう。

●編集部注
 喜劇王チャップリンに「人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ」という言葉がある。

 WEB全盛の現代で「力物産」を検索しても全くヒットしない。

 従って、どんな事件であったのかは今となっては全く分からない。

 何やら、業界にとって、深刻な事件のようだが。

【昭和四七年十月七日小豆三月限大阪八九九〇円・三三〇円高/東京九〇三〇円・一二〇円安】