昭和の風林史(昭和四八年一月十二日掲載分)

怖くない相場 売り上がるのみ

小豆相場は売り上がっていく一手だ。熱病にかかった買い方はある日突然現実を直視しよう。

「寒鯉を見るやうすうすと群なせる 秋桜子」

ヒットラーはドイツの敗色濃くなった時、パリ全域に火をつけろと命じ『パリは燃えているか?』と絶叫した。パリは燃えているか―有名な言葉である。

相場は燃えているか。

きょうも凄いです。次から次へ火がついています。

乾繭、人絹、ゴム相場がストップ高である。

大発会以来、商品相場も燃えている。

株式相場は立ち会い時間を短縮している。

小豆相場は一万三千円目標だそうだ。手亡にも火がつき手亡の一万円相場必至の人気。

毎日、後場が終わるとケイ線用紙を上につぎ足す。ゴムのケイ線も、毛糸のケイ線も、やっている、やっている。

誰も彼もがケイ線をつぎ足している。

大手専業は、この津浪のように押し寄せる大衆買いで、懐ろの食い合いは難しくなっている。

そして各商品取引所は時代の変化と共に市場の管理に今までにない難しさを感じている。過熱するのは困る。さりとて古い考えの規制でしばりつけるのも時代逆行である。

商品業界は新年早々大きな問題を提起された格好である。

それにしても東穀は延刻延刻で市場課の処理能力が低下したのか、それとも中国大豆が負担になっているのか、取引所当局は、たび重なる立ち会い延刻について早急に対策を講ずべきであろう。

さて、かなりの踏みを誘発し、そして強気がふえつつあるこの小豆相場、産地からは現物が消費地に向かって、たちまち動き出した。

時ならぬ高値出現で消費地在庫は急増しよう。

強気筋は①大衆筋のインフレムード買い②値ごろ売り③若い相場④強力な買い方仕手―を材料に、現物が豊富な年である事を、ともすれば無視する。

しかし、相場は、あくまでも相場である。

①消費地に在庫がたまる②煎(い)れが出た③かなりの買いつきが見られた④不需要期の高値出現で消費は止まる⑤中国、台湾小豆がはいってくる。

人々の浮かれている熱が冷(さ)めた時に、小豆はやはり小豆だったということになろう。

●編集部注
アラン・ドロンやカーク・ダグラスがでていた米仏合作映画『パリは燃えているか』の公開は昭和四十一年。一方、燃えた相場は映画にならぬ。

この場面、アナーキーの「東京イズバーニング」の方が似つかわしい。

【昭和四八年一月十一日小豆六月限大阪一万〇七四〇円・二六〇円安/東京一万〇六九〇円・三一〇円安】