昭和の風林史(昭和四八年一月十九日掲載分)

これが相場だ ああ砂上の楼閣

インフレを先食いした相場の末路だ。カードでつくったお城が潰れる。ジンジンしている人が多い。

「竹薮に散りて仕舞いぬ冬椿 普羅」

値が荷を呼ぶのは相場の常。ピービーンズの大量成約でまず大手亡相場が崩れた。

一万円必至で、大衆筋も安心買いになっていた。

他商品は、すでに年頭に天井して、あれほどの熱気も覚(さ)めてしまった。

財界長老、日清紡の桜田武氏は『人間のする事には行き過ぎもある。しかし息を吸ってばかりいたのでは命はもたない。吸った息は必ずはきます。はく息と吸う息のない相場に私はいまだお目にかかったことがない』と言う。けだし名言である。桜田氏は戦前、ニューヨーク綿花の定期相場を張りまくった人だし、三品市場でも活躍した。

東穀は17日、土井商事に小豆、手亡の買い建て玉の委託者名簿の報告を求めた。一委託者一限月当たり四百枚の受託制限に抵触していないかを調べる。取引所としては当然の義務である。ひと場で一限月千枚カイなどやって、強引に一万二千円を付けた大阪市場でも、取引所はあれを放置しておくのか?と批判の声が強かった。

一月18日は土用。そして19日は旧暦十五日の満月。20日大寒の入り。相場でいう節変わりが続く。

おりから朝日新聞18日付け朝刊は「有力理事が収賄」―と関門商取の悪質取引員旧H社の件が報じられている。うかれてばかりはいられない事を知らしめるのだ。

17日〔強引・露骨・上放れ〕→〔大引け叩き込み長陰線〕。おごる平家は久しからず。18日〔ぼんやりに寄り付いて→S安〕。

この二本の叩き込みで安心買い人気に冷水三斗を浴びせた。相場は天井した。これが相場である。

山本リンダは「ジンジンさせて」と歌っている。相場社会はカッカしたり、ジンジンさせたり目まぐるしい。高値を嫌というほど買いついた手亡であり小豆である。気がつけば現物がウズを巻いて入荷していた。

名にしおう買い方主力はこの場面をどのように対処してくるか。ここは力で抵抗しても相場の大勢が無理に無理を重ね、しかも自ら取り組みを重くし現物を呼んだあとだけに一万円割れ、あるいは九千五百円という水準までは整理が続こう。

すでにインフレを先食いした相場と見ればよい。

これが相場というものだ。下げは瞬時なり。

●編集部註
 相場には「どうにもとまらない」動きがある。

 買い方、売り方を問わず、一方が相手方を「狂わせたいの」であろう。

 「狙いうち」された方はたまったものではないが、これもまた相場というものの一つの側面ではある。

【昭和四八年一月十八日小豆六月限大阪一万〇八九〇円・五二〇円安/東京一万〇九〇〇円・五五〇円安】