昭和の風林史(昭和四八年一月二十四日掲載分)

チンチロ相場 買い一本で勝負

暴落、ぶっ叩き、棒下げ、崩し、S安―なんでもよいから、そういう時は火中に飛び込む気で買え。

「樹のうろの薮柑子にも実の一つ 蛇笏」

サイコロ三ツをふって、四と五と六の目が出たら倍取り。一と二と三が出たら倍払いという賭けがある。車夫馬丁のたぐいが、うつつを抜かした慰みごとである。勝負が早いので昔は証券取引所の場立ちがよくやっていた。今はそういう悪い事はしない。丼鉢の中にサイコロを落とすとチンチロリンと涼しい音がするから、チンチロリン賭博。

今の小豆相場をチンチロ相場という。勝負も早いが次の節、どういう値が付くか判らない。出たとこ勝負である。需給もケイ線も取り組みも、あったものではない。
しかし取引所も主務省もあるいは識者も、なんにも言わない。

なにも言う必要がないのかもしれない。となればスケールの大きなインフレ相場という事になる。

商いが弾むことはよい事なのかもしれない。

買い主力は一万五千枚にも達する買い玉である。かつて出現したことのない超ド級の仕手である。市場では、どこで、どうやって逃げるのだろうかと気になっているが、長期戦に持ち込んで、天災期にはいれば綺麗な絵が書けるのかもしれない。

大口の投機家群は、チンチロ相場に血道をあげている。確かに注文玉も大きい。センマイカイ、などと気安く言う。

世の中は変わったものであると、つくづく思う。

それで、この小豆相場、当面千百円押しの倍返しは一万三千二、三百円どころ。今週はそのあたりまで行って、あと深押しになるかあるいは、ある程度下げておいて一万三千五百円を取りに行くか―というところ。

大勢的には一万五千円という声が市場で言われる。そんな馬鹿な―と吐いて捨てる人も多いが、いやあり得る値段だと思う人も多い。だから相場になる。

筆者も、前週までなら、吐いて捨てた。が、まてよ、チンチロ相場じゃないか―と考え直した。一犬虚に吠ゆれば万犬実に吠ゆという。土俵が大きくなって、勝負に熱がこもり、観衆が増大する一方では、四・五・六の目が続いて五回出ることだってある。

急落、ぶっ叩き、崩れ、棒下げ場面は火中に飛び込む思いで買いだ。

●編集部注
 相場は鉄火場。取引の合間に博打をやっていた。米国も例外ではない。

 ウォール街では一時期、ライアーズ・ポーカーなる遊びが流行した。これは、サイコロが可愛く見える程エゲつない遊びだ。

【昭和四八年一月二三日小豆六月限大阪一万二〇九〇円・二七〇円高/東京一万一九四〇円・二六〇円高】