異相の相場師 桑名の人に聞く
小豆相場は今まで以上のスケールになりそうだ。小手先の強弱は通用しないだろう。買い方針だ。
「よろこびはかなしみに似て冬牡丹 青邨」
この小豆相場は、言うならこれからであると思った。
一見、一万二千円の攻防のように見えるけれど一万一千円台は割らない。
一月一万一千円。二月二千円。三月三千円。四月四千円。五月五千円。とくれば六、七月は―となる。
大垣の大石吉六氏は『物価や株価など、あるいは土地不動産、そういうものすべてが高騰した現在、換金性があり流通性のある小豆に目がつけられる。すでに繊維相場は規制でしばられて手が出ない。小豆は豊作だからこそ、今年の本命商品で、桑名の買い主力は仕手戦を考えているのではなく、やはり投資という考えだ。私は今の市場規模はまだまだ小さいと思う。桑名の存在は、ある意味で商品業界の大きなPRになり、方針さえ適格ならは数億、数十億の利益を手にすることが出来るという事を現実に知らしめた。私は今の小豆相場は安いと思っている。一万五千円ぐらいの値段はあってもおかしくない』―。
桑名の買い主力は『強引な事は絶対にしない。私は今の小豆が安いと思って買っているだけで、買い占めだとか玉締めなどする意思はない。現物も出来得れば二十万俵ほど持ってみようと思う。今年の天候を思惑するのだ。聞けば米にしても小豆にしても包装技術が非常に進んでいるそうで、一年二年品質はまったく不変だという。私に対する風当たりはいろいろな面で、きつくなるかもしれないが私は、ただ一路、この小豆は高くなると信じて安ければ買っていく』。
すでに彼は現在、時の人である。筆者は今までに接した多くの相場師とはまったく違ったものを感じた。大石吉六氏によって育てられ、世に出たまだ未完成の異才である。これからどうなるかは判らないが、商品界が生んだ偉大な英雄になり得るかもしれず、あるいはその感覚に同調出来ない保守的な考えの人の多い商品界を敵に回す存在になるかもしれない。時代が生んだこの異相の若き(昭和10年生まれ)相場師は、スケールが大きく、そして緻密な頭脳も持ち主である。
筆者は〝時代が人物を生み出す〟という言葉を思うのである。
●編集部注
日本は、天才に冷たい国であると思う。「天才」を「異能の人」に言い換えても良いだろう。
自身の頭脳で理解出来ぬ領域で動く人は嫌われ、叩かれる傾向が強い。ましてや、その人が儲けていたとすれば尚更である。
【昭和四八年一月二四日小豆六月限大阪一万二一四〇円・五〇円高/東京一万二〇九〇円・一五〇円高】