昭和の風林史(昭和四八年二月十七日掲載分)

ムード買い再燃 狂った相場展開

センターが狂った時代である。日本列島に投機の輪が拡大していく。一億総投資家時代である。

「下町の小さき公園沈丁花 杞陽」

ドルを売った資金の行き場がないためそのお金で商社は株を買っている。下げるべきはずの株価が狂ってしまって高い。この反動はいずれ出るだろう。

毛糸相場が全限月一線上に並んでスタートした。取引所相場の上値を二千六百円に制限したこと自体がおかしかった。通産省は国会を気にして取引所に馬鹿げた圧力をかけたが、あまりにもそれは不自然であった。

株高に刺激されて続騰中の生糸がさらに火を噴いた。綿糸、人絹、スフも爆発高。ゴムも強烈である。小豆にもその買い気が押し寄せ、手亡も爆走している。

日本列島まさに投機一色である。

投機の輪が次々と拡大していく。

小豆にしても品物がないわけではないが、熱風に煽られ〝とにかく買っておけ〟という理性のない資金がウズを巻いて流入している。

理性のない資金は、いうなればコストゼロの資金である。

コストのない金はアメリカ西部を駆けめぐった銀行強盗のような無法者である。
まさしく一億総投機家の感を強くする。

いつまでこういうことが続くのか。政府はいずれ投機抑制の声明を出さざるを得なくなるだろうが、コストゼロの投機資金は国境もなく思想もないから燃え尽きるところまで猛威をふるうだろう。

家庭の主婦も今やスペキュレーター化しつつある。恐るべきムードである。

さてムード買いの小豆相場であるが押し目幅の倍返し一万四千五百円に暴走してしまうか。まさしく需給事情など一億総投機家の前には問題でないようだ。

しかし、もの事には動あれば反動がある。それが真理である。時代は狂えど真理は不変である。

どこまで、理性を失ってこの投機人気が突き進むかである。熱しきり、熟しきり、猛威をふるうだけふるったあとは恐慌の惨落が忍び寄るのである。

本日は旧暦一月の十五日、即ち月も満ち満ちて満月である。満つれば欠くのは世のならい。

伸びきった小豆、疲れの極限と見ればぶっ叩くもよし。実勢遊離のムード買いはなんら怖くない。

●編集部注
 「この状況、おやっさんキッツイやろうなぁ~」

 また遠い目をして筆者の目の前の人が呟く。

 「頑固、頑迷、落ち目の要因―て、自分の本で書いとってこらぁないで」

 辛辣なご意見である。

【昭和四八年二月十六日小豆七月限大阪一万三七三〇円・三九〇円高/東京一万三六九〇円・四九〇円高】