昭和の風林史(昭和四八年二月二十五日掲載分)

卑怯な手段なり 総理に対する陳情は

小豆等に関する某筋の陳情書が業界に険悪なムードを投げかけている。キタナイ手である。

「古き世の火の色のうごく野焼かな 蛇笏」

小豆相場は複数で微妙な環境で冴えない。

先に、穀物相場に関して出所不明の〝陳情書〟が総理大臣田中角栄氏に手渡され、これが農林省当局に回送され、当業界に大きな波紋をもたらしている。

時期が時期だけに現在商品業界は①K社の京都夜久野町公金事件②関門商取にかかわるH社関連の事件③そして小豆の売り方当業者と見られる筋からの総理大臣に対する直訴事件がからみあって、ただいま現下の業界雰囲気は、甚だしく険悪な状態である。

小豆に関する陳情所の要旨は、およそ次の通りである。

『―長年にわたり雑豆の取り引きに従事してきた経験から次のような対策を実行されるよう陳情する。

大豆、小豆、手亡等、端境期対策として八月限より建て玉を制限。それで効果がなければ新規売買停止。当限新規売買はカラ売防止のため売り方倉荷証券、買い方丸代金とする。値洗い差金は売り方、買い方にそれぞれ支払う事なく受け渡し決済まで取引所に保管させる。

―取引所は相場が騰貴すれば、商いが増大し手数料収入がふえるので値上げ賛成である。専業取引員は素人の犠牲で利益を得、ダミーを設立して向かい、値洗い差金取り立てを強要、また仕手筋が買い占めに出ているのを主務省も取引所も黙認している。生産量が限られている小豆、手亡を無制限に取引所で売買させている事に無理がある。一委託者の建て玉を制限しているが架空名義に分割しているので建て玉を制限しても買い占め可能となる―』等々。

業界では、この陳情書の出所は、およそ見当がついているようで、自社が小豆を売って苦しいため、このような卑怯な手を使った―と激怒して、除名処分にせよという声も強い。

陳情に至った背景が奈辺にあるかは判らないけれど、業界内部の問題を政治の場に持ち込んで解決しようとした行為には誰しも釈然としない。

それが(陳情書が)きっかけで一方的に現在の穀物市場を為政者が判断するという危険性もあり、強弱を離れてこの問題は早急に真相を糾明する必要があろう。

●編集部注
 怪文書である。最近めっきり見ないと思ったが、今はネット社会だ。更にエゲツナイかも知れぬ。
 不埒者に対して相場の神様は冷酷かつ残酷だ。
 仮にこの執筆者が風林の指摘通り売り方なら、その咎めを確実に相場の世界で受ける羽目に陥る。

【昭和四八年二月二六日小豆七月限大阪一万三三〇〇円・一八〇円安/東京一万三三六〇円・二〇〇円安】