昭和の風林史(昭和四八年四月十二日掲載分)

当たり屋に聞く 『五月が買い場だ』

生糸で儲け、小豆で儲け、只今見送り中という偉大なドクターが、買いは少し早いと診断する。

「子遍路の脚こしらへのまま眠る 天易」

読者とはありがたいもので、あまりの曲がりように見かねて、電話してくれる。『もうちょっと、早いのではないか。四月は大きく出直れないで下値調べ五月中旬から出直る相場が本当は判り易い買い場になろう』と。

この親切な読者は、お医者さんらしい。そして、随分のクロウトである。しかもマバラの玉ではなく、建て玉も三、五百枚という投機家である。相場歴は小豆の〝吉田相場〟あるいは伊藤忠雄氏時代以来というからまさしくプロの投機師だ。

生糸で億単位の利食いをしたようであるし、毛糸でも数千万円。今度の小豆でも億に近い利食いではないだろうか。

ミスター・ドクターは『日本中ほとんどのケイ線屋さんを渡りあるいた。そして、ほとんどを買ってみた。数百万円を投じた』とおっしゃる。『結局日足線一本でよい。私は先限引き継ぎと当限引き継ぎだけ引いています。ただし毛糸も生糸も綿糸もと、他商品も引いている』そうだ。

要は憲法ではない。直感です。絶対の絶という買い場が判るものです。ただし、とドクターは言う。相場は女と一緒で、のべつまくなしだと身の破滅になる。取ったり、取られたり。やはり大儲けしたあとは、休むことで、私は只今売り玉利食いしたあと見送っているところです―と。

どこかのお店でやっていて、甘木某というお名前だそうだが、ご迷惑がかかるといけないので本名も店の名前も伏せておこう。筆者は一度この偉大なお医者様に脈をとってもらおうかと思う。左様、曲がり病の処方箋を書いていただく。

先生は健康保険証じゃ駄目だとおっしゃるかもしれない。いやその前にお酒を飲む先生か、飲まない先生かを調べてかからないとお酒を飲まない先生にかかったら最後、タバコもお酒もいけませんと言われる。その点お酒の好きな先生だと度を過ごしてはいけませんが、ちょっとぐらいやったほうが、かえってよいでしょう―などと理解ある診断を下す。薄暗いレントゲン室で缶ビールの缶みたいなのを渡され、ゆっくり飲んでくださいと言われて、ほーうと思ったことがある。なんとそれはバリュームだった。ああいうのは感心しない。

●編集部注
 相場巧者ほど手書きでケイ線を引く印象がある。

 ローソク足でもP&Fでも何でも良い。毎日コツコツ手書きしている巧者を筆者も知っている。

【昭和四八年四月十一日小豆九月限大阪一万一九九〇円・五〇〇円高/東京一万一九四〇円・四六〇円高】