静中暴落あり 陰の極未だ遠し
下げ途上の中段のモミ。反発反騰よしの地点。だがその力なし。なれば日ならずして暴落せん。
「とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな 汀女」
なんということもない納会であった。前日に納会した生糸八月限のような劇的暴騰場面を期待していた人がいたかもしれない。
九月の産地は完熟期に入る。そして収穫の秋。北海道は駆け足で秋から冬に向かっていく。
小豆の作況について、今年ほど、なにもなかったことは珍しい。一時的に干ばつが心配された程度である。
残るは収穫前の長雨。台風。立ち枯れ病。早霜の心配だけである。
百七十万俵収穫の予想がほぼ、かたまってきた現在としては、史上まれに見る豊富な在庫量が、いかにも圧迫材料である。
荒れ狂っていた狂気のムード、インフレ換物人気も、小豆に関してはほぼ冷却した。
その残害として八千円台、九千円台の買い玉が鳥もかよわぬようなところに、ひっかかっている。
ここで相場は、あと千円幅の下げ余地を残して足踏みしている。
一見したところ、下げ充分、値固め、売り警戒。中段底。自律反騰―などが脳裏を走るが、相場そのものを見ていると、昨日書いたように草臥れすぎている。
無気力な相場と取り組んで、夏の暑さで消耗した体力と気力を、ふるいたたせようとしても、空虚な感じしか残らない。相場する側の人も相応に疲労している夏の終わりである。
中途半端に反騰すれば、その弾みで、逆に屋根瓦が全部ずり落ちてしまうかもしれない。
一万一千円どころ。あと三千五、七百円崩した。
即ち高値から八千下げである。四月14日に付けた安値地点が再現しない―とは誰が保証出来ようか。
その下げのきっかけは、なにによるかと申せば買い方の総退陣である。ナポレオンも、ヒトラーも冬将軍には勝てなかった。
歳落ちて衆芸やみ、時は大火(星の名・アンタレス)の流るるに当る。霜威塞を出でて早く雲色江を渡りて秋なり。夢はめぐる返城の月。心は飛ぶ胡国の楼。帰りを思えば汾水の如く日として悠悠たらざるなし。
雁帰り、相場故郷に戻らんとす。
●編集部註
当時の罫線を見ると、相場は一万四千円でコツンと底打ちの音を聴き、恐らく買い方は信念の買い攻勢をかけたと思う。
ただ以前から当欄で指摘した〝相場の塔婆〟はまだ出現せず。実際、売り相場はまだまだ続く。
【昭和四八年八月二八日小豆一月限大阪一万四八三〇円・三〇〇円高/東京一万四八二〇円・二八〇円高】