昭和の風林史(昭和四八年九月七日掲載分)

空前の在庫量 買い方押し潰す

下げるは下げるは、奈落の底まで下げる小豆・手亡。だが下げ足が早ければ転機も早くなる。

「葛の葉にうらみがほなる小雨(こさめ)哉 蕪村」

五日付各紙の朝刊は商品相場の軒並み急落を大きく報じていた。

そして、それが影響してこのところ株式市場の柱となっていた市況関連株(繊維、非鉄など)が急落したため、東証ダウは五日一挙に一〇七円も暴落した。商品市場と株式市場との連動性といえるだろう。

こうした両市場の連動性は株式市場のスケールが大きくなり、商品市場のスケールが相対的に小さくなった昨今では、それほど顕著ではなかったが、国際商品市況の動きが、ただちに物価に跳ね返る折柄、今後株式市況の推移を考える場合、商品相場の動向が無視できなくなった。

もっとも昔は、もっと株式、商品市場は直結されていたものである。そのため昭和のはじめごろまでの株式市況の解説には、絶えず綿糸、生糸の動きや米相場の好、不調がのべられている。

一例をあげると、昭和元年版、東京藍沢久平商店の株式便覧では大正十四年四月の市況説明に「中旬は旬初区々に保合いたるも生糸、綿糸、期米の好勢、スチールの昂騰を入れて諸株とも反騰歩調を取り候。下旬は貿易の大入超、米綿、スチール、生糸安の外に政局案じも加はり底意気丈ながらあも相場は伸び悩み候」とある。

戦後、証券と商品市場は完全に分離され、兼業はもちろん禁止、経営者が同じでも店舗は別々にせねばならない現状だが、株式相場と商品相場は本来裏表のものであって当然と思われる。

さて、それにしてもこのところの各商品の下げはきつい。とくに小豆は六日のS安をいれると新ポから連続四日のS安である。生糸や毛糸でも三日の高値からそれぞれおおよそ七〇〇円、二〇〇円の下げ幅、綿糸で四〇円の下げである。

市場の人気はこの春と正反対に弱気一色、今ここで強気をぶてば気違い扱いにされるだろう。

小豆先限の一万円割れ必至の声もきこえるし、在庫量からみて去年の安値七、七五〇円(大阪)もありうるとする人もふえてきた。

しかし、弱気の意見が一番よく聞こえるとき、相場は案外に底を打つものである。
物には物としての値打ちがあるものとすれば、ここから追い打ちをかけることはない。底入れを待つ方が賢明だろう。

●編集部注
 底打ち前夜の情景也。

 なにやら平成の御世と昭和四八年の相場がリンクしているように感じているのは筆者だけか。

 さりげなく市場行政に毒を吐く箇所が面白い。

【昭和四八年九月六日小豆二月限大阪一万二三三〇円・七〇〇円安/東京一万二二九〇円・七〇〇円安】