昭和の風林史(昭和四八年九月十二日掲載分)

鬼神も哭いた この相場は買いだ

明らかに下げ過ぎである。強烈な訂正高がある。買い落城の安峠、人の捨てた小豆買うべし。

「十六夜や朱腕に澄みし豆腐汁 古郷」

十五夜の次の夜を十六夜(いざよい)。その次の夜を立待月。そして居待月、寝待月、更待月(二十日月)となる。のんびりしていた時代の風流である。相場がストンでS安連発ではつきの風情など楽しむゆとりはない。

穀物業界の顔(がん)面は蒼白である。

相場が高いときは市場管理委員会は〝業界の危機〟を感じて種々の対策を講ずるが、こういう時には痴呆状態で打つ手がない。

現在の相場は、あきらかに市場の危機である。

全限一万円大台割れは、秒読み段階である。

見渡せば業界は荒れ果てた。鬼神も哭く相場であった。

米崩れ買い落城の飛び下げは、気は弱くとも売りは禁制。分別も思案もいらぬ買い時は、人の捨てたる米崩れなり。大法は秋名月で安峠、五月下旬が高峠なり。

半値にもなろうかという小豆。七月13日の金曜日のあの高値が行き過ぎたものであったとしても、今の水準は下げ過ぎである。

当時の相場新聞の論調は来年の作付け大幅減。そして49年は大凶作予想。物価高。インフレ人気などで二万円地相場というものであった。僅か二カ月前の事である。

筆者は、玉整理が一応終わり、市場が大なるショックから立ち直れば、いかに在庫があろうと作柄が豊作だろうと、物には限度というものがあるから下げ過ぎの分は訂正すると見る。
日柄で目数を読めば彼岸時分が底値構成。十月にかけて三カ月またがり60日のひと波動が終わる。

これからはホクレンのタナ上げ問題や収穫前の産地天候、また秋の需要。新規の思惑筋の介入。売り方の利食いなど、今までが悲観しすぎていたので、その反対の明るい材料が、われわれの前に並べられよう。

先限の一万五百円は止まる値段と見る。期近の八千二百円は中国小豆の格差を引くと五千七百円のものである。

要は市場人気が落ち着くのを待つだけである。冷静になれば、あまりの安さにあらためて気がつくだろう。

鬼神も哭いた相場、ぼつぼつ強気の態勢がよい。

●編集部注 
 ここまでの文章を読んだ上で当時の東京小豆の日足をご覧戴きたい。この上ヒゲのみ輝く、寄り引き同時線が塔婆である。

 この塔婆出現から一カ月。気がつけば罫線用紙に底打ちを示す離れ小島も出現。流れは変わる。

【昭和四八年九月十一日小豆二月限大阪一万〇四八〇円・七〇〇円安/東京一万〇三一〇円・七〇〇円安】