昭和の風林史(昭和四八年九月二十九日掲載分)

手亡に火が付く まず三千五百円

手亡は赤い炎の矢が飛ぶところで先限の一万三千五、七百円が見えてきた。小豆の噴き値売り。

「もの言いて露けき夜と覚えたり 虚子」

海外の雑豆価格高騰が人気の弱くなった市場を刺激した。特に手亡相場は西山九二三氏の多田商事が納会で大量受けに出たことから、あなどるわけにはいかない―という人気である。

三品市場で活躍した往年の大相場師・西山九二三氏は、手亡相場に取り組んで久しいが、市場雀の言うことにゃ、あっちにふらり、こっちにふらり、頼りありそうで頼りなく、九月はきっと受けるまい―と言われていたのが、どっこい生きていた。どうだい、受けようと思えば受けられるのだと、カウンターで水割りのブランデーのグラスの中の氷をカラカラと音にして〝星も胡弓も琥珀の酒も夢の上海花売り娘…〟などと歌っていることかもしれない。

それで市場がこうなってくると、市場人気は手のヒラ返したように、案外この相場足が早いよ、期近の一万二千五百円は必至―ということになった。

ただ問題は急激な行動に移ると、すかさず規制の強化となって、はね返ってくる環境だけに一気の攻撃も出来にくいところだし手亡に対しての人気も取り組みも、まだまだ燃えやすいものになっていないのが難といえば難である。

手亡十月限のケイ線では一万二百円以下の安値は用のないところで一万一千円どころの〝かたまり〟は明らかに一万二千円乗せと指向している。

この限月の高値は一万三千八百五十円(大阪)で、安値八千八百三十円まで五千二十円幅を下げたあと、半値戻し地点の一万一千三百四十円を今度こそ足場に踏んで飛躍しようとする姿であった。

そして先物限月は一万二千七百二十円生まれ値からぶっ叩かれて二千百五十円を落とし、いまその下げ幅を軽く取り戻し、この限月の新値に矢を飛ばそうとしている。

恐らく一万三千五百円市場の環境から見ても付く相場である。

一方小豆相場は証拠金の引き下げで、さらに仕掛けやすくなった事と手亡高で下値にテコが入って、やや弱気に片寄った人気の裏が出たけれど、この水準からの上値には新穀の出回り最盛期を迎えるだけに抵抗がある。小豆は噴き値売りでよいと思った。

●編集部註
高値平板下値切り上がりの底打ち線形である。

【昭和四八年九月二八日小豆二月限大阪一万一七一〇円・四〇〇円高/東京一万一九〇〇円・三五〇円高】