昭和の風林史(昭和四八年十月十二日掲載分)

供給過剰でも 錯覚すると買う

ありありと供給過剰の小豆を、人々は、なにに酔っているのか強気したがるので変なぐあいだ。

「行く秋の鐘つき料を取りに来る 子規」

小豆相場を見ていると、なんとしても買いたがる。

買いは陽気。売りは陰気。人間誰しも明るいほうを好むものである。

手亡の下げ止まり、小豆の値ごろ感。22日札幌で行なわれる〝全道豆類対策専門委員会〟の成り行き期待などから押し目買い気分が支配している。

北農中央会帯広支所は①小豆の集荷態勢の強化②48年産小豆の農家手取りを一俵一万円以上確保③菜豆類の品質低下に伴い五等検査を設定する―など道食糧事務所に働きかけた。

農家手取り最低一万円という事なら、運賃諸経費を加えて消費地値段一万一千五百円ぐらいになるという。そこへ定期の人気料を幾らに見るかだ。

市場の強気は、来年新ポ生まれる四月限は古品の供用が出来ない新穀一本の限月になるから、相当なサヤを買って生まれよう。三月限の発会も上ザヤを買った。相場は四月限生まれで様相は一層硬化するだろう―と楽しみにしている。

商品の先物相場は需給事情を主にして動く時と人気本位で動くときがある。現在は、どちらかといえば需給相場であるが、大相場出現のあとだけに高値が忘れられず、しかも活躍した強力な仕手が介在しているだけに、どうしても人気相場の色彩が需給相場の上にかぶさる。

休日明けは桑名筋が買ってきた―というので、にわかに硬化したわけだがまだまだ人気相場に盛り上がるには環境が青すぎる。去年の在庫と今現在の在庫量の違いも雲泥の差があるし、過剰流動性資金の量も去年と今とでは比較にならない。

強気筋は、ともすれば新穀の契約が進んでいない事を買い材料にするけれど、産地に収穫した分だけの在庫があるという事は、値が高ければいつでも売ってくるのであるから、なんら強材料にならない。

ともかく市場人気が買いたがっているあいだはこの相場、常に値崩れ含みだ―と思っておけばよい。これが十年前なら五千円割れの相場である。時代が変わったから大豊作、大量在庫でも一万三千円割れは安いなどと思うのだろうが、どこかが狂っている。

●編集部註
そう、狂っている。

この年の11月、内閣改造に伴って大蔵大臣に就任した福田赳夫は、これから始まるオイルショックとインフレを称して「狂乱物価」と表現した。

【昭和四八年十月十一日小豆三月限大阪一万三一二〇円・二九〇円高/東京一万三〇九〇円・三五〇円高】