みんな冬支度だ

道で、ヤクルトのおばちゃんに挨拶されて「どなた様でしたか」。年をとると、呆けてくる。
ほろほろとぬかごこぼるる垣根かな 子規。
裏庭に植えていた山芋に、ぬかごがいっぱい実をつけた。茹でて食用にした。
秋もだんだん深まってきた。相撲が終わって、なんとなく淋しい。
日馬富士が横綱になって、来場所は楽しみが増える。
私の子供のころは、横綱が四人いた。その中でも双葉山だ。
暑くなく、寒くなく、いい気候である。夜になると、縁の下で鳴いていた〝ちちろ虫〟はもう鳴かなくなった。
玄関の近くの電柱に来ていた山鳩も、まったく姿を見せない。
みんな冬支度に忙しい。料理の上手なヘルパーさんに「あなたのつくる薩摩汁は、ことのほかおいしい」と褒めて、大きな鍋いっぱいに作ってもらう。彼女の家では『とん汁』というのです。
お米がないから、ご飯を炊かない。その代わり、里芋を入れてもらう。牛蒡、厚揚げ、かんぴょう。大根に人参。
三日も四日も、鍋の薩摩汁で命をつなぐようなものか。
帰りに近鉄電車に乗る時には、百貨店の食品売り場でも覗けばよさそうだが、それがめんどうである。
本当は鮑とか食べてみたいと思わぬ事もない。
夕飯は高菜のおにぎりでよい。
お昼時に、ヤクルトのおばちゃんがヨーグルトを持って売りに来てくれる。これでも食べておけば、なんとかなろう。決して命を粗末にしているわけではないが、食欲はない。