昭和の風林史(昭和五七年九月十四日掲載分)

小豆の下値は意外に深い

小豆は七月19日の下値をとりに行くだろう。要するに秋底をつくるための下げだ。

小豆の高値掴みの人は、12日の日曜の台風18号進路を夜遅くまでテレビに張りついて、よしこれなら産地直撃、週明けS高かも―と期待したことであろう。

確かに北海道二番限月はS高付けたが、被害もなかったようで消費地相場は、よく知っている。

高値?みの玉が逃げられるほど、相場に戻す力はなかった。

今回の台風18号が日曜でなく、あれが相場の立っている日だったら、もう少し買ったかもしれない。

ということは、買い方にツキがない。

相場の世界でなにが一番悲しいかといって、このツキが離れるほど悲惨なものはない。

この七月に潰れた桑名筋にしても去年は10年ぶりに戻ってきたツキだった。

これを大切にしなかったがため今年に入って延々と苦戦して遂には店二軒を飛ばし業界に多大な迷惑をかけてしまった。

いま生糸市場で似たようなことを栗田氏がやっている。彼からもツキが離れている。

四斗樽一杯の才能よりも盃一杯の幸運が勝るのが人生であり相場である。

ツキが離れた時は無理をせず、腕をこまねいて放つなかれ。日暮れて道遠しだが、忍の一字しかない。

二万九千円は割れないとみる人の多い小豆だが、割るときゃ一発雨ん中。

三万円は傘。二万九千円を割るために戻したようなものかもしれない。

大幅増反、豊作相場を出しきっていないこと。

三万円台の因果玉が整理されていないこと。

景気がよくないこと。

そんなことで、収穫が進めば、大根どきの大根相場。

買い玉の大掃除で二万八千円を割っているかもしれないと思う。七月19日の安値は必らずとりに行く。

●編集部註
 鍋島高明氏がこれまで何冊にもわたって書き綴られておられる歴代の相場師たちの評伝を見ると、つくづく引き際の難しさを感じる。勝ち逃げという表現はするべきではないかも知れないが、最後の最後で一敗地に塗れるケースが少なくない。
 勝利者は、大概相場から離れて別の分野に移っているケースが多い。鍋島氏の著作を読むと「え、この人相場張ってたのか」という人物が登場する。
 繰り返す諸行無常―。
 相場とは関係ないが、この日グレース・ケリーが自動車事故で死んだ。
 ヒッチコック作品のヒロインとして頻繁に出演した彼女は、1956年に引退。モナコ公国の公妃になっていた。