昭和の風林史(昭和五七年二月十八日掲載分)

悪さは尾を引いて長びく

下げは今週一杯だという見方が多いから、悪さは尾を引いて長びくかもしれない。

一匹狼の歩合セールスを使わせたら天下一品といわれるK氏の口ぐせは『商品セールスは評論家でないのだ。また過去の栄光は、なんの価値もない。あるのはいま、なん枚の(お客さんの)玉を持っているかだ。しかも、幾ら利が乗っているかだけである。君はいま現役か(相場戦線にあるのか)。小豆でいえば五百丁引かされたらこれはもう黒星だ。勝ち星なら次の展開をどう考えているのか―』と。

小豆で千丁引かされて理くつや気やすめいっているようなセールスは客から電話切られて失格だ。それほど厳しいのです―と。

K氏は大正のロマンを持っていると自分ではいう。これまでボロボロのセールスを幾人もピカピカに仕上げてきた影武者でもある。それだけにいうことは筋金が入っていて気持がよい。よれよれのセールスもシャンとする。

彼も浮き沈みは激しく決して報われているとは思えないが、自分の人生は、こんなものだと達観しているところが好きである。

小豆相場は二月10日天井打ちなのか、それとも押し目なのか迷っている人が多い。押し目と見る人は三万六千円以上にまた買われるという期待感がある。

しかし残念ながらこの相場は春の天井している。

去年の二月の下げは短期だったが、あの時と今は水準も違うし、環境も違う。

要するに、買い過ぎと日柄の両方で、上げた分を消す段階に入っている。

碁でいうと打ち過ぎた石が死んでいる。これは捨て石とは違う。

相場が相場を壊すのを自壊作用という。

買い方の存在を怖がっているから売らない。この現象も一種の相場自壊である。下は浅いという人が多いだけに思いもよらぬ下げになるのではなかろうか。

●編集部註
 過去の風林火山を掲載して数年。温故知新というか、今回のような先人の言葉をもう一度、商品先物取引に現在携わっておられる方々にお読み戴けて良かったと思う。
 やれスマートベータだ、AIだと新しいものを貴ぶ風潮は相場に限らずどこにでもあるが、新しいものほど消えるのも早いというのは、長く生きていると身に沁みて感じる。
 今は亡き名匠、横井軍平氏は「枯れた技術の水平思考」という独自の哲学で、ホコリをかぶっているものの、消えずに残っている技術を生かしてヒット商品を生んだ。
 かくありたいものだ。