売り屋は指し切った格好
売り屋も買い屋もひと息入れて新ポからまた激闘。売り方指し切り型で持久に入る。
小豆は売り屋が疲れた格好だ。桑名筋の資金面の、あることないこと憶測まじえて叩いてみたが叩ききれずに跳ね返されて受けるだけ受けられてしまうと、あとの手がない。
まあ、そのようなところでなかろうか。
世の中は面白いもので、判官贔屓(びいき)というのがある。それというのも千枚超える渡し物を受けきった現実。資力もさることながら、その気力たるや普通の人のできる事でない。
相場が反発したのもそのへんの機微である。
なに事も信念を貫く姿は尊い。売り屋はきたない―と世間の目に映るようだと、これは買い屋の〝信は力なり〟の無言の圧力に負けたことになる。
もう一ツは、人気が弱くなり過ぎた。総売りベタ売りでは、反動がくる。
だから仕切り直しのようなものか。
相場はエスカレートすると強気・弱気が正気でなく熱気になり狂気になる。
取引所や役所に狂気のポジション・トークをぶつけて建玉有利にしようとする。
なにがなんでも勝たねばならんのが相場だが、これは、きたない。
売り屋もすこし頭を涼しくして、買い屋に手を渡してみたらどうだろう。
王手王手必死の手が詰めにならなきゃ駒を渡しただけに次は攻められる番。
攻めはゆるく守りは堅く―というのが碁の基本と聞く。
トレンドは大きな下げの中の中勢上げ。その中勢上げの中の小局下げが終わって目先反発型。
九、十月限の三千五、七百円ありと見て売り場待ち。
煎れることはない。買うだけ買ってもらうがよい。
買い屋だってお天とう様が味方するかせんか、銭の力よりそのほうが勝ち負けのポイント。新ポからまた戦いのラッパだ。
●編集部註
当節、〇〇筋といった仕手の方々の存在は見えにくい。この時期の小豆相場は、後の相場史に名を遺した相場師を敗退させた事で知られる。桑名筋はその代表格である。
桑名筋こと板崎喜内人氏は昭和10年生まれ。この時47歳である。証券マンから商品相場の世界に入り、37歳から38歳にかけて小豆相場で100億稼いだ。この資金を元手に商品会社を買収。業界に進出した。
沢木耕太郎は板崎を取材し「鼠たちの祭り」という短編を執筆。これは現在「人の砂漠」(新潮文庫)に収録されている。
桑名筋はこの年の小豆相場で大敗し、追証を巡るトラブルで買収した会社は倒産してしまう。