昭和の風林史(昭和五七年十二月二十日掲載分)

陰きわまりて陽を発せん

コスリあいみたいな相場で世知辛い。手数料抜け幅のハンディがこたえるみたいだ。

忘れてしまっているが北海道小豆の高値は現物で五万六千五百円した。この半値が二万八千二百五十円、今の相場。

五割安となれば一応の限界である。

その相場を売っていこうという考えが判らない。

収穫百十九万三千俵は前々からいわれていた百二十万俵収穫予想にピタリ。

一応知ったらしまいで好感され買われた。

相場というもの天井圏での硬(買い)材料は売りに転換するように、陰の極=底値圏での軟(売り)材料は買いに変身する。

陰きわまって陽転という。

あともう一枚のフダは輸入発表であるが、これとて免疫ができている。

年内すでに余日。いまさらの感なくもないが、八千五、七百円は利食い場とみるし、七千円台の小豆は買っておいて銭になる。

総体に業界は力がない。だから大きい波動を望むべくもない。

桑名、六本木筋、角田、静岡、メナード、生糸の金倉等。そしてT社の分などこの一年、この業界で消えたお金がざっと百五十億円か。店は自己玉イカレてばかり。あたら名のある相場師たちも大なり小なり傷を受けては、新しい血が業界に入らぬ限り、もう元気の出しようがない。

相場を考えるうえでこの事を忘れては、相場が判らなくなる。

万里悲秋ことごとく衰老という姿。愁いによってかくの如き相場と知る。

とは申せ、細々ながら夢がなければ生きられん。

初春の夢は輸入大豆だ。

輸大の三千八百円割れがほしいが、ほしい値は皆様買いたい。だからまず買っておいて―となる。

●編集部註
 この日も含めて、1982年の取引もあと7営業日。筆致も総括ムードである。この年の相場は既に終了モードで、視点はもう来年に向かっている。相場は意地悪で、こおいう時に限ってまだひと波乱残っている。
まあ、それはおいおいわかるとして、この頃は映画館でスピルバーグ監督の「ET」が公開されて数週間が経っている。
 この作品、日本でも空前の大ヒットを記録し、史上初の観客動員数1000万人を突破する。
 筆者も経験したが劇場は毎回立ち見。通路までギッシリ詰まっていた。
 大納会手前の弛緩した社内の空気は体験している。当時の若手営業マンは「早く切り上げてET観に行こうぜ」と言っていたのではないか。