昭和の風林史(昭和五九年三月十二日掲載分)

銀相場にロマンを求めて

判りにくい相場は横に置いといて、やはり流れは銀に集中している。銀の夢は大きい。

東京銀先限は高値から七円80銭を棒下げしたが、金銀比較(二月限)40・39と銀の割安が目立ち、下げ幅の半値をすぐに切り返す買われようだ。

銀の取り組みは四万枚に迫り、値の動きが大きい時には出来高も一万枚を越す活況。

八日の出来高は市場別に見て銀が一万九百72枚。東京ゴム九千七百86枚。東穀中国大豆七千三百53枚と、この日は銀がずば抜けた。

銀は78年~80年のハント兄弟による挑戦までは、およそ100年のあいだ金銀比較は32対1の比率で維持している。いま金をグラム当たり三千円としてその比率まで銀を買うとすれば93円75銭になる。

ハント買い占めの時は17対1まで銀価格を吊り上げたが、ハントは古代中世における13対1までは銀が値打ちを出すはずだというロマンに賭けた基準を持っていたらしい。

ロマンに賭けたハントのシルバー・ウォーは無残に破れたが、それでも1対17まで金に接近した。

貴金属相場は、5㌦の銀が10倍の50㌦にもなる可能性を秘めている。

確かにNY砂糖にしても2㌣(68年・ポンド当り現物)の相場が74年に65㌣50まで大化けしたし、78年5㌣96が80年44㌣80まで狂騰している。

しかし、3㌦のシカゴ大豆が10倍になった歴史はない。もしそのようなことがあるとすれば人類の危機である。

貴金属相場は、それがどれだけ暴騰しても(資産価値としての)代替品がないし、食糧のような人類生存の影響もないだけに、相場は、あばれほうだいという夢がある。

●編集部註
 人は二度死ぬという。一度目は肉体の死。二度目は人物名の死。つまり、その人物の存在を現世の人々が誰もが知らない状態なった時に訪れる。
 トイ・ストーリー等で知られるピクサーが制作した映画「リメンバー・ミー」は、メキシコを舞台に、ラテンアメリカ諸国で祝日になっている「死者の日」を題材にした、二度目の死にまつわる異色のディズニー・アニメであった。死がテーマであったにもかかわらず、世界中で大ヒットする。
 そこへ行くと、ここで登場するハント兄弟は恐らく当面、二度目の死を迎える事はないだろう。まさに、〝悪名は無名に勝る〟の典型例といっても過言ではない人物である。
 銀といえばハント、ハントといえば銀という具合に、商品先物の世界でこれだけ世界中にその名が通った人物も珍しい。
 映画「大逆転」で敵役のモデルにされ、ウィキペディアにもその名が。読んでみると、国際金融のハイテク化を促進させるきっかけとなった人物とも記されている。