昭和の風林史(昭和五八年六月十四日掲載分)

小豆はなにか知っている

小豆はなにかを知っている。それは大相場の出現である。いまはまだ序の口だ。

北海道は低温が続いている。発芽した小豆は二㌢ぐらいだが、未だ発芽しない場所もあって、地温の上がらないのが怖いし、発芽して二㌢や三㌢のところに低温、強い風とくれば被害が出る。

例年六月15日の札幌神社の御祭礼を過ぎると、もう降霜の心配はなくなるといわれ、ともかくほっとするが、今年の場合、いまのような気象条件だと、15日過ぎても油断できない。

市場は全般に弱気支配である。

増反。改良品種増。密植。農協筋の売りヘッジ。不需要期。実需不振。冷凍小豆の輸入圧迫。大納言小豆の10月限ぶちあけ。

そのほか自由化への傾向や小豆取り組みのふえない現況。またマバラ大衆筋の買いに対して玄人筋の売り姿勢。

ともかく芯になる買い方不在であるし、弱材料ばかりだ。西洋ではよくワラの中から縫針を探すというが、まさしく買い材料はお天気まかせだけで、ワラの中の針一本を探すようなもの。

しかし、相場としては本年の大底が入っていると思う。一月11日安値に対して五月26日安値(実際には六月6日安値)が年内の大底をつくっている。

相場というものは実に不思議なもので、どんなに悪材料山積でも大底が入ると、なんだかんだと起き上がり、そして上伸していく。いまの小豆でもそれは言えると思う。

いやむしろ玄人筋の売りが多いだけに、流れが変化したと確信を持てば、それが九千円でも損切りしてドテン買いにまわるだろう。

その辺から今買っている大衆筋が利食いして、今度は売り上がるというパターンになるだろう。大きく発展する相場の、ほんのまだ序の口である。

●編集部註
 自戒の念を込めて書くが、せっかく天運に恵まれて大底で買ったにもかかわらず、小賢しきかなちょいと上がったところで利食いドテンに転じる事の何と多い事か。
 損ならば幾らでも耐えられるのに、利が伸びていく事に耐えられないのは何故だろう。これが人間の器量の違いだろうか。
 そういえばちょうどこの頃、不登校や引きこもり、非行を繰り返す子供たちを集め、スパルタ教育で更生させるという触れ込みで一躍有名になったヨットスクールの校長らが、訓練中の障害致死で逮捕されている。
 折しも校長の教育論に共感した有志が映画を製作。この年の9月に公開予定だったが、校長の逮捕でお蔵入りとなった。