昭和の風林史(昭和五十年五月六日掲載分)

待つこと久し 投機家出動態勢

すべては天候次第というスリリングな場面に近づくわけで、そろそろ投機家も落ち着かなくなる。

「後架にも竹の葉降りて薄暑かな 蛇笏」

穀雨のあと十五夜、きょう立夏(りっか)。夏立つともいう立夏のあと十五夜、小満という。万物次第に長じて満つる意。もう夏が来た。

三連休が終わった今週は、国鉄、新幹線、私鉄のストが予定され交通機関は混乱しそうだ。

一方では英国の女王陛下の御来日できらびやかな歓迎行事が展開される。フォード米大統領の時とは比べものにならない絢爛たるものだろう。

フォード大統領の時の宮中晩さん会のメニューはツバメの巣のコンソメ。マナガツオの白葡萄酒蒸し。フオグラ。牛肉蒸し焼き。サラダ。凍菓。メロンと葡萄であった。

今度も恐らくメニューが発表になるだろうが、これが楽しみである。

さて相場のほうはどうだろう。

大規模な交通ストが決行されると、これまでの経験で相場のほうも、ちぐはぐになる。

営業活動が、どうしても停滞するからだ。

そういうことから相場に調子がつくのは今月中旬以降になるのではなかろうか。

四月末消費地在庫の発表。北海道三カ月長期気象予報の発表。豆類作付け動向―など、いずれも相場に影響をもたらす重要発表があいつぐ。

また北海道から農作業の進展状況が刻々と伝えられるわけで、小豆相場を忘れた投機家もそろそろお尻のあたりがムズムズしてくる。

小豆相場は、なんといっても天災期である。

万朶の桜か襟の色の歩兵の本領か散兵戦なら小豆投機の醍醐味は播種期前の緊張感。発芽期の降霜。成育期の低温と雨。はえぎれ。あるいは旱ばつ。土用の天候。病虫害。開花期の気象。そして結実。収穫期の早霜、その間の台風の針路など、まさしく舞台が変わり、手に汗握らすドラマである。

穀物市場の人々は名古屋の熱田神宮祭(六月五日)時分から札幌神宮祭(六月十五日)のころにかけてもう落ち着かなくなる。

さて今年の天候相場は、どのような興奮が楽しめるであろうか。

仕手の介入もあるだろう。

産地供給量百十三万俵。消費地在庫二十万俵の小豆。絢爛たる展開が期待されるのである。

●編集部注
この時、宮中晩さん会の料理を担当する宮内省大膳寮厨司長は秋山徳蔵ではない。彼は昭和四七年に引退し、四九年に亡くなっている。彼こそが後年出版され、ドラマ化もされた小説「天皇の料理番」のモデルである。

【昭和五十年五月二日小豆十月限大阪一万七一四〇円・三〇円安/東京一万七一七〇円・三〇円高】