昭和の風林史(昭和五十年四月一日掲載分)

大衆が勝つか 餌食にされるか

手亡相場の七不思議。手亡の大取り組みの謎解きすれば愚かな大衆の動員力という事になるが。

「たそがれや松に消えこむ春の雨 子規」

毛糸の全取り組み高を手亡の全取り組み高が凌駕して、なんとも末恐ろしいものを感じる。

見るものをして怪獣のようにさえ思わせる手亡だ。

逆に小豆が細っている。

この取り組みの推移を、どう解釈するかが、今後の相場を解明する一ツの鍵だ。

値ごろ観と、証拠金の安さによる大衆パワーだと、簡単に片づけられるだろうか。

長年、相場記者をやってきて、このような現象は見たことがない。

しかも手亡相場は大衆買いの象徴的対象限月である先限(八月限)が、その一代で二千六百円替えの大下げを演じた。

にもかかわらず取り組みは減らない。

手亡相場の七不思議だ。

また、手亡相場はピービーンズの価格低落。商社の売りヘッジ。終局的に定期の渡し切りという幾多の圧迫材料があり、しかも新穀から供用格差虐待という事情もあって旧穀ピービーンズの捨て場という問題もある。

従って、手亡相場は買い妙味がない―ということは、今や〝相場の常識〟でさえある。
なのに、大崩れしたあとも大衆の買いが続く。

一体これはどうした事か。

その謎解きの一ツに専業取引員の営業方針が証拠金の安い手亡に集中していることが挙げられる。

穀物事情や供用格差問題、そして市場内部要因に疎い大衆投機家(この場合、自らの意思よりも積極的セールスの勧誘による建て玉)は、それが乾繭であれ、毛糸であれ、また手亡であれ、受動的に建て玉する。

今の手亡相場の大取り組みは、そういう専業取引員の営業力によって維持されていると見ることが出来よう。

この場合、相場の強弱とは、まったく違った次元での論議が必要であるが未だ、わが業界では、この種の論議が展開されたことがない。

大手亡現物と輸入ピービーンズの実勢と、かけ離れた大衆筋の買い。この勝負がどう展開されるか。言えることは〝愚かなる大衆は、常に餌食になる〟という現象と、時運に乗った大衆パワーは威力を発揮するということである。

●編集部注
この年の四月一日もいろいろと変更があった。

広島の東洋工業は販売車種に「mazda」のマークを取り付け、広島東洋カープはこの年のペナントレースからヘルメットの色を赤に変えている。

【昭和五十年三月三一日小豆八月限大阪一万六九二〇円・五〇円安/東京一万六九五〇円・三〇円安】