昭和の風林史(昭和五四年十二月十二日掲載分)

円高に急転して 〝奈落の底〟へ

ゴム・輸大・砂糖の輸入商品は完全に頭打ち。年の瀬が迫るとともに奈落の底に落ちこむ。

きのう円が一時一㌦=二三〇円を突破した。

十一月27日の最安値二五一円五〇銭からすると二〇円以上の急騰である。

これだから相場というものは明日の日どうなるか判らない。

先月27日円が二五〇円を割ったあと、政府・日銀は六項目からなる緊急円安対策を打ち出したが、一向に効き目はなく介入や為替管理では円安基調は改めることはできないというのが一般的な見方であった。

それがあっという間に一日に十円高を演じたのだから、まるで狐につままれたような具合だ。

株式相場の方は円安を殆ど材料視していなかっただけに、突然の円高にも反応は別段なかったが、商品相場の方はこのところ輸入商品であるゴム・輸入大豆・砂糖が大衆の人気を集めていただけに影響は大きい。

とくに円の動きとストレートに連動していたゴムは僅か四日間で二五円もの大暴落、まさに買い方の顔色はまっさおを通りこしている。

こうなれば罫線も、取組みもあったものではない。目下の材料は円相場の動き如何だけである。

ところが相場のなかで為替相場ぐらい難解なものはない。

ここへきて促成の自称為替評論家が続出しているようだが、みなあたるも八罫あたらぬも八罫式のものばかり。

人の意見で右往左往していると迷いを深めるだけ。円の相場がこのままどこまで戻るか誰にも判らないが、底を打った以上三分の一か半値戻りがあるとみても不思議ではない。為替相場の影響の大きいゴム・輸大・砂糖は売り方針。投げのでるのはこれからだ。

●編集部註

 手元の記録でこの時のドル円相場を追体験してみた。僅か6営業日で、為替が18円動いている。これは尋常ではない。
 しかも週足で見ると、前年のクリスマス頃は1㌦=193円。上記の通り11月に250円を突破後に230円近くまで動いた挙句、翌年の松の内が明けるか明けないかのころから反転した相場は、80年4月頭に1㌦=26
0円を突破する。

 ミセスワタナベの時代なら、何人の死者と何人の富豪を生み出していたか。逆に考えると、電子取引隆盛の昨今で出現しにくい相場かも知れない。レッセフェールに参加するものが多ければ多い程、投機という名の思惑は価格を平準化。突飛な動きは短時間化しやすい。

 この日はもう一つ重要な日でもあった。この年の10月に朴正煕大統領が暗殺された韓国でクーデターが起こったのだ。

 実権を掌握した全斗煥は翌年に大統領に就任。その過程で起きた光州事件は、その後の韓国民にとって負の歴史となり、トラウマを植え付けた。